匿名掲示板の正義にお墨付きを与えた「情報ロンダリング」

その果てに起こったのが昨夏の大騒動だ。まずはある反五輪派市民のツイートが、このブログ記事をシェアして小山田氏の「炎上」を引き起こした。ついで、疑わしいブログ記事に基づくこのネット炎上を、毎日新聞が報じた。

同紙の記事は『QJ』「いじめ紀行」のコピーを写真掲載し、原典に当たったことを強調しているものの、真剣に吟味すれば大炎上には不釣り合いな内容だとわかるはずなのだから、引用の文言を確認しただけで性急に執筆されたと判断すべきだろう。

今日の米国で「情報ロンダリング」と呼ばれる現象がある。この現象は、不確かなソースに基づくニュースが、主流メディアでそのまま報じられることで権威を得てしまうことを意味する。匿名掲示板由来の顕著に歪曲的な小山田圭吾像に大メディアのお墨付きを与えることで、毎日新聞はまさにこの情報ロンダリングの遂行者となったのだと言える。

当然ながら、同紙はつねに不確かな情報を精査せずにSNSの「炎上」に飛びつく迂闊さを示しているわけではない。それどころか毎日新聞取材班『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか』(毎日新聞出版、2020年)の出版を通して、この厄介な現象をめぐる誠実な問題提起を行ってさえいる。

それだけにいっそう、反五輪世論を活気づけようと迂闊な大胆さを発揮することで、匿名掲示板の正義を全国紙の正義として流通させてしまった事実は嘆かわしいと言うほかない(以上、より詳細は「長い呪いのあとで…(5)」を参照)。