「任意」の本当の意味

国税庁のホームページに同姓同名者が複数登録され、漫画家本人の登録番号なのかが判断できなくなった際、何が起こるのか? 誰もが知っているレベルの大御所漫画家でもない限り、おそらく出版社側は事務処理軽減のため、漫画家に対して「屋号(=芸名・ペンネーム)」の追加登録を求めざるを得ない。

そうすれば「登録番号」「氏名」「屋号」がセットになって国税庁ウェブサイトで公開されるため、経理担当者は受け取ったインボイスの登録番号は間違いなく漫画家本人のものであると判断できる。

*芸名・ペンネームで活動する個人事業主の場合、屋号に芸名・ペンネームを用いることは一般的

出版社との関係悪化や、事務手続きの不都合などを避けたい漫画家の立場を考えれば、出版社の要求を飲まざるを得ないだろう。どうしても「屋号」の追加公開を避けたい場合は「事務所所在地」を公開する手もあるが、個人事業主の場合は自宅が事務所を兼ねる場合が多く、住所バレに繋がる恐れがある。

つまり、この問題はペンネームや芸名で活動するクリエーター(VTuber・YouTuber・作家・アーティスト・俳優・声優 等)全員に対して、「地獄の三択」を迫っているといえる。

① 取引先との関係悪化を覚悟して、「屋号」「事務所所在地」の追加公開を断る→取引の停止・縮小などの不利益を被る可能性が高い

②「屋号」を追加公開する→国税庁ウェブサイトで氏名と屋号がセットで公開されるため、本名バレする可能性が極めて高い(屋号に芸名・ペンネームが含まれる場合、芸名・ペンネームで検索すれば誰でも一発で本名と紐づけられてしまうため)

③ 「事務所所在地」を追加公開する→何らかの理由で「登録番号」「氏名」が流出した場合、芋づる式に事務所所在地もバレる。自宅住所を兼ねる場合は住所バレとなる

*本名バレ問題の詳しい解説(弁護士・税理士の見解)はnote「【弁護士&税理士に聞く】インボイス制度で本名バレ? しかも個人情報が一括ダウンロード可能&商用利用OKって本当??」参照

さらに、この問題は芸名・ペンネームを使っていない個人事業主にとっても廃業を考えるほどの致命傷になる恐れがある。例えば、家族や元パートナー、ストーカーなどから逃げて、個人事業主として生計を立てているケース。

この場合、相手は最初からこの個人事業主の本名を知っているため、国税庁ウェブサイトで本名で検索すれば、確実にヒットする。その際、屋号や事務所所在地もセットで公開されていれば、事業内容や居場所のヒントを与えることになり、生活が脅かされる恐れがある。