すでに「佐藤勝」が7件、「鈴木一弘」が6件登録されていた!

そこで、ペンネームで活動する漫画家(インボイス発行事業者に登録済み)が出版社にインボイス(適格請求書)を発行するケースを例に、具体的に何が起きるのか考えてみよう。

出版社は税務処理を進める(=漫画家に支払った報酬を仕入税額控除して、出版社が納める消費税から差し引く)にあたって、受け取ったインボイスに記載された登録番号(T +数字13桁)が漫画家本人のものか、登録番号は有効なのか確認する必要がある。

そこで、インボイス発行事業者の情報が公開された国税庁ウェブサイト(正式名称:適格請求書発行事業者公表サイト)で登録番号を検索キーにして、事業者情報を閲覧する。

しかし、この業務を行うであろう経理担当者が漫画家の本名を知らない限り、検索結果画面を見ても本人の登録番号なのか判断できない。

登録番号で検索した画面のイメージ。国税庁ウェブサイト「ご利用方法」より引用
登録番号で検索した画面のイメージ。国税庁ウェブサイト「ご利用方法」より引用

なぜならば、国税庁ウェブサイトの利用方法で例示されている上記の検索結果画面を見れば分かる通り、「T3123456789123」という登録番号に該当する人物の本名が「国税 太郎」であること、登録年月日が「令和5年10月1日」であることしか、この画面からは分からないからだ。

もし経理担当者が本名を知っていたとしても、よほど珍しい名字・名前でない限りは同姓同名の登録者が複数いることが想定されるため、やはり本人の登録番号なのかは判断できない。

現に、2022年8月末時点でインボイス発行事業者に登録済みの個人事業主の個人情報195,935件を筆者が確認したところ、すぐに大量の同姓同名を確認できた。参考までに、ごく一部の例を、重複が多い順に紹介する。 


7件:佐藤勝
6件:鈴木一弘
4件:伊藤健二、小林哲夫
3件:高橋一夫、田中和子、前田明彦
2件:新井和幸、石井康之、岡田正明、後藤真吾、菅原孝、杉山智、谷口幸治、渡邉覚、若林史朗

日本で特に人数が多い名字(佐藤、鈴木、高橋、田中、伊藤など)が重複しやすいのは予想できたが、そこまで人数が多い印象は受けない名字(渡邉、若林)や名前(覚、和幸)であっても、すでに同姓同名がいることに注目したい。

日本の個人事業主の総数は約186万者(2016年 中小企業庁調査)。つまり、現在はまだ1割程度しか登録していない。インボイスに登録しないと実質的に市場から排除される仕組みを考えると、これから多くの個人事業主が続々と登録することが予想される。

今後、登録者が最大10倍まで膨らんだら、よほど珍しい名字と名前の組み合わせでない限り、同姓同名は確実に出てくるものと予想される。ここで、先ほど「任意」で公開可能な項目として紹介した「屋号」「事務所所在地」の本当の意味が浮き彫りになってくる。