まぐろ職人の目利きをAIで再現
くら寿司では、養殖以外の魚についてもAIを用いたスマート仕入れを進めてきた。コロナ禍で海外渡航や国内での移動制限が行われていた時期には、ベテラン仲買人の目利きを学習したAIを搭載した「TUNA SCOPE」アプリを、回転寿司チェーンとして初めて導入。仕入れの品質維持に努めたという。
TUNA SCOPEは株式会社電通・株式会社電通国際情報サービスが開発したアプリで、まぐろの尾の断面をスマホのカメラで撮影し、その画像から機械学習によって品質をABMの3段階のランクで判定するというもの。認識精度は35年の経験を持つまぐろ仲買人の判断と約90%が一致したという。
「仕入れ担当者が自由に移動できなかった2020年に導入し、期間限定で『極み熟成AIまぐろ』として販売しました。こちらは継続的な取り組みではありませんが、水産業界自体に新規参入が少ないという状況を踏まえると、将来的に不可欠な技術であることは確認できました」(黒見さん)
寿司のネタとなる魚の育成から、仕入れ、店舗での販売に至るまで、すべてのプロセスで積極的にDX化を進めるくら寿司だが、そこには経営者の理念が大きく影響しているという。
「回転寿司としては後発の参入のため、独自性や存在価値の追求に熱心に取り組む社風が浸透しています。社長自身もアイデアや特許保護を大事にしていて、新しい技術も可能な限り社内で研究開発し、理論だけでなく現場に落とし込んだ際に通用するものであるかどうかを常に追求しています」(黒見さん)
くら寿司本社にはITリテラシーの高い20代から50代まで幅広い世代が在籍するテクノロジー開発部が設置され、常時20〜30人程度が生産性や利便性の向上、店舗システムの効率化に取り組んでいるという。
美味しい寿司をリーズナブルかつ安全に提供する。このシンプルな目的を実現するためには、AIやIoTといった先進的な技術導入が欠かせないというのがくら寿司における共通認識となっている。
文/栗原亮(Arkhē)
写真提供/くら寿司株式会社