「漁業創成」のためのAI活用
回転寿司の人気のネタと言えば、サーモンやまぐろ、ハマチ、ブリなどが思い浮かぶだろう。特に日本近海に生息するハマチは養殖が盛んで、90年以上の歴史を持ち、全国各地で1000億円以上の生産額を誇っている。
だが、近年は漁業における労働環境の厳しさや高齢化に伴う人手不足の問題が顕在化し、養殖ハマチにおいても安定供給が脅かされる状況が生まれていた。
そのような状況の中、くら寿司では2010年に産地直送の新鮮な魚を寿司ネタにする「天然魚プロジェクト」を始動。定置網漁で獲れた魚をまるごと買い取ることで、貴重な海の資源を無駄なく活用するとともに、漁業者への収入安定化にもつなげる「一船買い」や、寿司ネタにならない部分もすべて無駄なく活用する「さかな100%プロジェクト」など、多方面から漁業創生の取り組みを実施してきた。その一環として子会社のKURAおさかなファーム株式会社を2021年11月に設立。ウミトロン株式会社が開発したスマート給餌機を導入するなどの新しい試みが進められている。
「漁師さんの生活と日本の漁業の活性化、海洋資源の持続的な保護を目指す『漁業創生』の取り組みの一つとしてKURAおさかなファームが設立されました。事業の柱は自社養殖、委託養殖、卸売の3つ。AIを用いたスマート養殖は委託養殖事業の一部で、『AIはまち』に関しては現在愛媛県宇和島市内の生産者様2社と契約を結んでおり、その全量を買い取って、くら寿司で販売する取り組みもしています」(黒見さん)
従来の養殖方法では、港から少し離れた沖合の生簀まで1日に2、3度漁船で往復し、ハマチや成長段階であるブリなどに給餌する必要があった。たとえ天候が悪くてもこの作業を止めることはできず、魚の健康状態の監視や餌やりのタイミングを適切に行わなければ、生簀(いけす)の魚ごと全滅してしまう危険性すらある。さらに、そこまでに投じた費用の回収も補償も得られない不安定な労働環境も、若い後継者の参入を阻んでいた。
KURAおさかなファームで導入したスマート給餌機「UMITRON CELL」は、スマートフォンとクラウドを連携し、遠隔で生簀に餌を投入できるシステム。その量やタイミングは生簀を監視するカメラからの映像をAIが解析し、自動的に量やタイミングを判断してくれるというものだ。
「自宅や事務所にいながらいつでもスマホで生簀の様子が見られますし、餌を補充する頻度も減るので船の燃料費や危険な洋上作業のリスクも減らせます。さらに、餌の量の最適化によって費用が削減できるだけでなく餌の食べ残しによる海洋への負荷も軽減できます」(黒見さん)
養殖に掛かる全費用の約7割は餌代が占めると言われているが、スマート給餌機の導入によって餌の量を約1割程度削減する効果が得られたという。
日本初となるスマート養殖で生育されたハマチは約20トンが水揚げされ、くら寿司の全店舗で「特大切り AIはまち」として2022年6月に限定販売された。並行して、スマート給餌機を使用したマダイの委託養殖事業も行っており、2024年にはくら寿司で扱うマダイとハマチの1/3をスマート養殖で供給することを計画しているとのことだ。