鍵は「選手のメンタル」コントロール
「誰もがグアルディオラ、モウリーニョ、クロップのようになって、タイトルを取れるわけじゃない。それぞれの監督に、それぞれのクラブでやるべき仕事がある。まずは、選手にやるべきことを認識させることだ」
そう語るアギーレは、マジョルカでも選手のモチベーションを高め、「負けない」選択で勝ち点を拾っていった。その点、チーム一のテクニシャンだった久保をベンチに置くことも躊躇っていない。不確実性の多い攻撃面の魅力を排除し、代わりにスランプの少ないファイターの泥臭さを重用。戦える陣容で守りを固め、カウンター一発を狙い、奇跡の残留をつかみ取った。
誤解のないように言えば、アギーレは守備偏重主義の監督ではない。選手の良さを引き出し、攻撃的にも戦える。その柔軟性は、メキシコ代表監督時代に示している。チーム状況と目的を鑑み、選手は何をすべきか、してはいけないか。その着地点を心得ているのだ。
指揮官が腹を括ることで、選手も納得する。自然と士気は高くなり、それは結果につながり、結果はプレーに自信を与える。構造的問題はあっても、10試合程度の短期決戦ならば押し切れるのだ。
瀬戸際にある集団において、簡潔なマネジメントこそが最上の策と言える。組織を一から作り直すのは難しい。選手が不安を感じている場合、混乱を増幅させるだけだからだ。
辿り着くところは、やはり選手のメンタルか。
一つ忘れてはならないのは、そうしてチームが救われた場合、その集団の新たな船出は十分に見直すべきである。なぜなら、その歓喜は危機的状況で生まれた産物で、再現性はないからだ。
取材・文/小宮良之 写真:西村尚己/アフロスポーツ