監督交代という禁断の果実
監督交代後、少なからずチームが巻き返しているのは、「ブースター」「カンフル剤」と言われる効果だろう。今までサブだった選手が士気を高め、一方で主力は尻に火がついて気持ちを入れ替える。まさに選手のメンタルの変化だけで、2,3試合は勝ち点を稼げる。しかし再現性のある戦いではなく、あくまで一過性の効果だ。
注意すべきは、監督を替えるたび、チームが消耗する点だろう。監督交代は禁断の果実で、かじるたびに高揚感を得られるが、中毒症状を発し、効果は鈍化、集団は弱体化する。3人以上監督を替えた場合、最悪の事態が起こる確率は非常に高くなる。例えば昨シーズンのスペイン、リーガエスパニョーラでは、降格した3チームとも3人の監督が指揮を執っている。
もっとも、不振のチームが監督を代えないのも、座して死を待つことを意味する。昨シーズンのJ1では、降格した3チームとも降格が決まるまで監督を代えていない。
事ここに至った場合、名を捨てて実を取る“現実主義の戦略”を取れるか。それが残留、降格の分かれ道になるかもしれない。スペインでは、降格しかけたクラブが縋る「Bomberos (ボンベーロス)」と言われるタイプの監督がいる。スペイン語で「消防士」という意味で、文字通り、火だるまになりかけている状況を救う。火消しの極意は、実務的な戦いに徹することだ。
「消防士監督と言われるのは嫌じゃないよ」
かつて日本代表を率いたこともあるメキシコ人監督ハビエル・アギーレは、その流儀を語っている。サラゴサ、エスパニョール、そして昨シーズンは久保建英を擁したマジョルカを、シーズン途中からの指揮で降格から救った。