もっと面白いものは、必ず作れる。
24時間体制で、次なるエンタメを模索中
――事件に巻き込まれるのは大変ですが、豊かな自然を満喫しながら執筆に勤しむ日々は、ある種、理想的な環境だとも。故郷へのUターンを考えたことは?
池井戸 ないですね。静かだけど、逆に落ち着かなくて集中できません。あの中に身を置いたら、小説は書けません。作中の三馬とは作家のタイプが違うんでしょう(笑)。僕は都会の、狭くるしい場所じゃないと書けないんです。
――エンタメに対して皆の見る目が厳しくなった時代になりました。
池井戸 小説の競合はたくさんありますからね。ドラマ、映画、ゲーム、ネットとさまざまなエンタテインメントがある中で、能動的に文字を読まなければならない小説に触れてもらおうと思ったら、やはりそれだけの魅力が必要なんだと思います。僕も、四六時中小説のことを考えていて、眠っていても夜中の2時、3時に飛び起きて「これだ」と思うアイデアをスマホにメモしていたりする。もはや24時間体制に近いものがありますが、それでも世の中に受け入れられるか出してみないとわかりません。状況は厳しいですよ。この頃はのんびりゴルフをやる気にもならない。周囲にはゴルフ引退を宣言しています(笑)。
――ベストセラー作家でもその危機感。しかしそれゆえに、やりがいもあるのでしょうね。
池井戸 いまのところ、僕の仕事は小説という活字の中だけに収まっていますが、出来ればもう少し創作の幅を広げていきたい。僕の作品は映像化されることがよくありますが、それだけに止まらず、エンタメとしてもっと面白いものを作れる気がします。
日本のエンタメのために自分にできること、仕掛けられることは何なのか。『ハヤブサ消防団』のように、小説での新基軸に挑戦し続けながら、新しいことにも取り組んでいきたいと思っています。
映像化は、小説の世界観を知ってもらう最大のプロモーション。『アキラとあきら』池井戸潤
取材・文/大谷道子 撮影/佐賀章広