「個性の集まりを、集団に束ねる」

「カゼミーロとは違うタイプのMFがチームにはいる。例えば私はACミラン時代に同じポジションにピルロを用いた。カゼミーロとは似ても似つかない」

そう語るアンチェロッティは選手次第でチームを構築し、それ故に多彩なプレースタイルを見せ、名将と呼ばれるのだ。監督は選手を見極め、適切な戦い方を選択することが仕事と言える。

結局、人を使えるか。その器がモノを言う。

バルサで歴史に残るチームを作り上げた名将、フランク・ライカールトはその点、圧倒的カリスマだった。アヤックス、ACミラン、オランダ代表などで輝かしいタイトルを獲得した現役時代は威光を纏っていたが、それだけではない。生来的なリーダーだった。

監督室ではいつも煙草をふかし、遅れて練習場に出て来た。泰然自若。トレーニングの実務はコーチに任せ、選手の調子を見極めた。選手が不満に感じていないか、浮かれ過ぎてはいないか、孤独を感じていないか。

「能力の高い選手は、たいてい複雑な性格の持ち主。そういう選手こそ、チームに必要とされる。善良さは悪いことではないが、必須ではない」

ライカールトはそう言って、美味そうに白い煙を吐き出した。

「監督は善良な選手を探し、チームを作るべきではない。いろんな性格の持ち主を融合させることだ。一人はリーダーシップを発揮し、一人は寡黙で従順、一人は反発心があり、一人は芸術を極める。個性の集まりにダイナミズムを与え、集団に束ねるのが監督の役目さ。だから、指導者は選手個人の振る舞いに気を配る。練習中、みんながムスッとしているのは良くないが、全員が笑っているのも良くない兆候さ」

ライカールトは生粋の統率者だった。選手ありきで、その力を引き出した。

「最近は誰もがシステムを論じるが、システムが大事なのではない。手持ちの選手に合うシステムを見つけることが大事さ。在籍する選手の能力やキャラクターが優先。サッカーは刻一刻と動きのあるスポーツで、用意した一つのモデルでは戦い抜けない。選手がピッチで応用するんだ」

彼は器の大きい名将だった。選手の意識を解放し、自由にプレーさせた。そうしてロナウジーニョを中心にした伝説的なチームを作った。