〝魔物〟と〝不運な判定〟に泣いた男 野村祐輔(広陵)

優勝まであと一歩にせまりながら「甲子園という魔物」の前に力尽きたのが、広陵(広島)のエース、野村祐輔(現・広島)だ。2007年、第89回夏の甲子園に出場した広陵は、夏の甲子園で3年連続決勝進出中だった駒大苫小牧や、その年の春のセンバツ王者、常葉学園菊川(静岡)など優勝候補を次々に破り、決勝戦に進出。相手は劇的な試合ばかりで「ミラクル佐賀北」と呼ばれ、人気を集めていた佐賀北(佐賀)だった。

いざ、決勝戦が始まれば、「広陵優勢では?」という大方の予想どおり、8回表を終わって4対0で広陵がリード。野村は佐賀北打線をヒット1本に抑えていた。

だが、8回裏。野村は連打を浴び、1死一、二塁と、この試合はじめてのピンチ。すると状況は一変。多くの観客が佐賀北の「ミラクル」を期待し、球場中が佐賀北の応援団のような雰囲気に。この異様な空気が野村にとってプレッシャーになったのか、ストライクがなかなか入らず、フォアボールで満塁。微妙な判定も続き、押し出して1点を与えてしまう。

なおも1アウト満塁という大ピンチ。打席にはこの大会でホームラン2本と好調の3番、副島浩史。失投は許されない状況で野村が投げたこの試合127球目は、真ん中付近への甘い球。副島がバットを振ると打球はレフトスタンドへ。まさにミラクルと呼ぶべき逆転満塁ホームランに甲子園は揺れた。

最終回、4対5と1点を追いかける広陵。最後は野村が打席に立ち、空振り三振でゲームセット。野村は急転直下の逆転負けで優勝投手になれなかった。