楽しみを追求する人々がコミュニティ化
「書籍を出したり、取材が増えたり、それによって面白い人が集まってきてくれる。この数年はいい循環がつくれていたのかなと思います」
住環境としてはデメリットが大きいだけに、あえて使おうとする人は個性豊かだった。それがコミュニティになっていたのが、建物のソフト面での特徴だったという。
「映画監督やフォトグラファー、ベンチャー系の方とか、楽しみを追求しようという人たちが集まっていました。自分が所有するカプセルの一つはオープンにして部室みたいに集まったり、夜な夜なイベントしたりね」
コロナ禍がビル保全の致命傷となった
その魅力が広く知られるようになり、活性化してきた中銀カプセルタワービル。他では得難い価値が形成されていたと言えそうだが、結局、なぜ取り壊すことになってしまったのだろうか。致命的な打撃を加えたのは世界的な新型コロナウイルスの流行だった。
「個人での修繕はもう厳しいですし、デベロッパーに所有してもらって、カプセルの新陳代謝を実現させたいと動いていたんです。ヨーロッパの企業と、かなり話は詰めていたんですよ」
カプセルのオーナーや管理組合との打ち合わせも進んでいたが、海外の企業であっただけに新型コロナウイルスの影響は大きく、話は流れてしまった。
「いよいよ老朽化も進む中で、区分所有のままでは修繕の話もまとまりづらい。最後は、カプセル活用を前提として保存派も全員説得して解体に賛成しました」
それゆえに解体は、黒川の構想通りカプセルを取り外す形で進んでいる。
「状態のいいカプセルを指定し、20カプセル以上を保存することになっています。搬入先の倉庫も用意済みなんです」
国内外の美術館などへの展示がいくつか内定しており、カプセルが世界に散らばっていく。さらに、宿泊施設に転用する構想もあるという。
「メタボリズム=新陳代謝で考えれば、展示するだけでなく新しい活用を考えていくべきですよね。やはりこの空間を泊まって体験してほしいから、宿泊施設を運営する会社に譲渡するなどの形で“カプセルヴィレッジ”をつくれないかと検討しています。内装コンペに使おうという話もあります」