議決権を強めるため15カプセルを所有
カプセルを手に入れ、魅了された前田さんは保存のために動き出すことになる。
2007年に決まった解体はリーマンショックの影響で一度白紙になっていたが、管理組合は建て替えの方向で話し合っていた。高度経済成長期の終わりに建ったこのビルは投資目的で所有した人も多く、普通のワンルームマンションになるならそのほうがよかったらしい。
「でも、こんなに面白い建物を建て替えてしまうなんてちょっとおかしいだろうと思いました。修繕するか、できれば本来のカプセルを交換するコンセプトを実現できたら面白いよなと。それをまず議題に上げるために議決権を得ようと考えたんです」
中銀カプセルタワービルの管理形態は通常の分譲マンションと同じで、所有する割合が大きいほど発言力が高まる。そこで前田さん自身がカプセルを複数所有したり、建物の保存に賛成するオーナーを少しずつ増やしていったのだ。
話をしてみると、「残したいが、老朽化しているなら仕方ない」というオーナーもいた。確かに、マイナス面ははっきり言って大きかった。
「よく言われたのは、ここは給湯が使えない、雨漏りする、そしてアスベストが使われているという3点です。でも保存したいオーナーもいることがわかりましたし、少しずつ理事会でも発言を始めました。買い手を紹介したり、借り手がつけばいいんじゃないかということでリノベーションを勧めたり、私自身も購入して最後は15カプセル所有していました」
じわじわと保存派が所有するカプセルが増え、一方的な建て替えは議題に上がらなくなってきた。そして、2014年に「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」を発足し、広報活動を行う。プロジェクトには、最終的にオーナーが25人ほど参加していた。