きっかけは手書きの捨て看板
「高速道路から見た中銀カプセルタワービルが印象的で、ずっと中を見てみたいなぁとは思っていたんですよね。広告会社勤めを始めてからはいつも近くを通っていたので、その思いがどんどん膨らんで」
きっかけは2010年に見つけた手書きの捨て看板だった。ビル近くの電柱に貼られた不動産広告で、「売りカプセル」「1カプセル400万円」と、そして不動産屋の電話番号しか書かれていなかったのだという。
「このビルって実は2007年に一度建て替えが決まっていて、そのときは大きく報道されたんです。だから、どうしてまだ売ってるんだろうって、思わず電話しちゃって。『解体の件はまだ揉めているから1、2年は遊べるよ』と言われましてね。不動産の捨て看板なんて誰も連絡しないものだと思っていたのに、まさか自分が連絡するとは(笑)」
そして400万円で1カプセルを購入。バブル期なら平均3000万円だったというから、その価値がどう見積もられていたのかが伺える。
「購入といっても借地権ですし、当時の認識では何のメリットもないですね。でもやっぱり、中を見たくて買ってしまったんです。平たく言えば衝動買いですね」
そうまでして中に入った中銀カプセルタワービルは、前田さんにとってどんな場所だったのだろうか。
「しばらく滞在してみないとわからない魅力があります。それぞれのカプセルが宙に浮いている状態だからか、周囲から隔絶された不思議な感覚です。小さな茶室が宇宙に通ずるような……宇宙船や潜水艦に喩える人もいますね」