そもそも「抗うつ薬は効かない」病気が大半
同クリニックではこれまでに約2000人の患者を治療し、5年後の再発率ゼロを達成。2017年に行われた厚生労働省の研究班の調査によれば、従業員数1000名以上の企業でうつ病で休職した人のうち、5年以内に再発して再休職した人の割合は47.1%というデータが出ている。比較すると驚異的な数字だ。
「精神科や心療内科を受診してメンタル不調を相談すると多くの場合、抗うつ薬や抗不安薬を処方されます。ですが、当クリニックを受診する患者さんの約3分の2は、これまでに他のクリニックを受診していて、処方された抗うつ薬を長期間飲んでも治らなかった方や、休職後に一旦は復職したものの、ふたたび再発して休職された方です。
開業から来年で10年目になりますが、うつ病(大うつ病)と診断して抗うつ薬を処方したのは2名だけ。そのほかは、双極2型障害、発達障害が要因の適応障害などの気分障害がほとんどであり、その多くは抗うつ薬では治らない『うつ病以外のメンタルヘルス不調』でした。
抗うつ薬を飲んでもこころの病が改善されなかったり再発してしまったりする方が多いのは、そもそも抗うつ薬で治る『うつ病(大うつ病)』ではなかったからだと私は考えています。
精神科では主観による診断が主ですから、その診断が本当に合っているのかは実はわからないんです。初診時での診断と最終的な確定診断が異なることもしばしば。私は、自分の診断と治療が本当に正しかったのかを知りたいので、患者さんが再発することなく働き続けることができているかどうか、数年後まで経過を追っています」
会社や上司のせいにしても意味がない
職場の人間関係やノルマなどのプレッシャー、苦手な業務を任されたことなどが原因で気分が沈みがちになったり、会社へ行くことがしんどくなってしまうビジネスパーソンも決して少なくない。
亀廣先生のクリニックでは、メンタルの調子を崩して働けなくなっている患者さんのためを思って、あえて厳しい言葉をかけることも多いという。
「患者さんの話を聞いて『大変でしたね』『それは会社や上司が悪い』と話を合わせ、薬を処方するのは簡単です。ご本人としても、『会社のせい』『あの上司のせい』という気持ちに同調してもらうと一瞬救われるかもしれません。ですが、それが事実だとしても、自分自身が変わらなければ根本的な問題は解決しないと私は考えています。
仮に患者さんが勤める職場に問題があったとしてもそれはそれとして、『あなたの問題はここですよ』と患者さんに伝え、直面化を促しながらご本人自身を変えていくという意識を持ってもらうようにしています。もちろん言いっぱなしではなく、解決策も時間をかけて伝えています。
患者さんにとっては、日常生活や考え方の癖なども含め、一度すべて見直してもらわなければいけないので大変だとは思います。薬に頼らないでこころの病を治すことは可能ですが、決して簡単なことではない。『患者さんご自身の覚悟』が欠かせないんです」