30年前に流行した温浴設備が随所に
タイルアート以外にも、浴室には変わった設備が。「ショルダーマッサージ」と書かれたいわゆる水圧を用いてマッサージを施す機械は、キャノン砲のような見た目。一般的には壁に空いた穴から水流が吹き出し、主に背中などを刺激するものだが、こちらは機械の下に体を潜り込ませ、肩に水流を当てる形式だ。コアなファンの間ではこの独特の見た目から「かっこいい」との声も上がっている。
「森林浴」と書かれているガラス張りの部屋は専用アロマオイルを用いたミスト浴を体験できる。まるで朝靄(あさもや)漂う森林に身を置いているような感覚で、さらに室内には1990年代後半頃までの歌謡曲が流れるエモ仕様。どちらの設備も今では見る機会が少なくなったが、実は改装当時、流行していた設備だったという。
「現在で言うところの炭酸泉みたいなもので、30年前はどの銭湯でもみることができた設備だったんです。ちなみにタイル絵も当時の流行りでした。ペンキ絵に比べて、手入れがしやすいというのもあったと思いますが、流行に乗って、うちもタイル絵にしたという感じです。」
確かに現在ではスーパー銭湯含め、多くの温浴施設で炭酸泉が採用されている。それと同じように、30年前は「ショルダーマッサージ」や「森林浴」も多くの施設で体験することができたのかもしれない。ちなみに遠赤外線ストーブを使用したサウナでも森林浴と同じアロマを使用しており、室内には良い香りが広がっている。
筆者も森林浴は体験済みだが、ミストに包まれる感覚とアロマの香りはクセになる心地よさだ。
「実は私の祖父(初代店主)は三の輪湯以外にもいくつか銭湯を経営していて、そこにも森林浴があったりステンドグラスがあったり、似たような設備があります。当時の流行もあったと思いますが、祖父の好みだったんでしょうね。墨田区東向島の『寺島浴場』と台東区根岸の『宝泉湯』という銭湯で、現在は親戚が経営しています。」
銭湯同士が親戚というのは案外あるケースのようで、創業者が同じであれば、共通の設備があるという話にも納得できる。銭湯を巡ってみて、似ているところを見つけるのも面白いだろう。
三の輪湯もうひとつの名物
前述したように、特徴的なタイルアートが三の輪湯の名物であることは間違いない。それに加えて、もうひとつお客さんを惹きつける魅力があるという。
「実は母(みよ子さん)が特に若いお客さんに人気でして。遠くに引っ越してしまってからも、母に会いに来る人が結構多いんですよ。中には旅行に行った後にお土産をわざわざ届けてくれて、そのまま母と話し込んだり。そういう意味では、母も三の輪湯の名物になるのかもしれないですね」。
母のみよ子さんはとても明るく、誰にでも気さくに話しかけてくれるその人柄が何より素晴らしい。特に新型コロナウイルスの影響で、仕事もリモートでの実施となり、他の人と対面で会話できる機会が少なくなっている中、気軽に会話をしに訪れることができる施設は大変貴重だ。お風呂で癒され、みよ子さんにも癒される。そんな日常はとても優雅でエモいものであると思う。
ここまで三の輪湯の魅力に迫ってきたが、日曜日限定で、生のハーブや植物を用いた贅沢なハーブ湯のイベントを開催していたりもする。取材に伺った週は「ルイボス湯」の張り紙が掲示されていた。
ぜひ様々な魅力溢れる三の輪湯に訪れてみてはいかがだろうか。
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第二回 国連のスーパーエリートが下町銭湯へとコンバート!? 東京都・墨田区の人情銭湯「電気湯」
撮影・取材・文/杉並バイブラー