大久保流銭湯の在り方「究極のご近所銭湯」とは

昨今ではデザインにこだわった銭湯や、サウナに力を入れる銭湯など、施設ごとに様々なカラーがある。そんな中、大久保さんが目指すのは「究極のご近所銭湯」だという。

国連のスーパーエリートが下町銭湯へとコンバート!?  東京都・墨田区の人情銭湯「電気湯」_9
サウナは遠赤外線ストーブのこぢんまりとした空間。ゆっくり一人の時間を楽しめる魅力ある空間だ

「最近よく『銭湯文化をなくしてはいけない』って言われる機会が増えているんですけど、その理由ってみんな説明できないんですよね。コミュニティーだったら近所の公園でもいいし、健康のための機会だったらスーパー銭湯でもいいし。銭湯に対して『代え難い価値』を見出さない限りは、銭湯業界はこのままなんです。そこから一歩先に進んで、『銭湯があることによってこの街は持っているよね』みたいな、逆に街の人たちに『銭湯を無くしたくない!』と思ってもらえるように、経営者が価値をどのように生み出していくか考えることが必要なんだと思います」。

銭湯が消費されるものではなく、その地域としての価値となることが、公衆浴場、ひいては銭湯文化存続の鍵になるというロジック。そのためには、ご近所付き合いだけでなく、お客さん同士が気配りができる共同主観的な発想も大事になると大久保さんは続ける。

「銭湯って公衆浴場なので、ある種お客さんにとっての共有物なんですよね。すると、共同で使っている場所を維持しようとする気持ちが芽生える。たとえば、浴室の椅子を石鹸で洗い出すお客さんなんかもいるんですよ。そうやってお互いに気配りというか維持しようとする雰囲気のある空間を作り上げたいですね。あとはお互いの気配を感じ取れるように、脱衣場の音楽は小さめに設定しています。後ろから迫ってくる足音を聞き取って、スペースを譲るとか、そういうお客さん同士の気配りも居心地の良い空間を作る上では大事なことだと思っています」。

国連のスーパーエリートが下町銭湯へとコンバート!?  東京都・墨田区の人情銭湯「電気湯」_10
どこか懐かしさを感じる落ち着いた雰囲気の脱衣所。椅子に座り、浴室の様子を眺めながら休憩したくなってしまう

下町銭湯としての在り方を模索して、他の銭湯経営者とも一緒に考えを凝らしながら工夫を続ける大久保さん。電気湯のエモさとは、こうした工夫や想いが「お客さんによる気配りが生み出す居心地の良さ・暖かさ」となって表れた姿なのだと今回の取材を通して実感した。

この日も開店の10分前にもなると、今か今かと開店を待つお客さんで電気湯の前には人だかりができる。創業から100年を超えても「究極のご近所銭湯」として電気湯は地域を、そして人々を温め続ける存在としてこの先も末永く在り続けるだろう。

国連のスーパーエリートが下町銭湯へとコンバート!?  東京都・墨田区の人情銭湯「電気湯」_11
開店前になると雨の日でも入り口前にはたくさんのお客さんが。待ちきれず、大久保さんがシャッターを開けるのを手伝うお客さん
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撮影・取材・文/杉並バイブラー