落ちないリップのはじまり

カネボウ化粧品の“落ちないリップ”への挑戦は、実はリップモンスターが初めてではない。

歴史を遡ると、“落ちないリップ”の歴史は1988年に登場した「BIOフィットネット口紅」がはじまりだ。吐息の水分が唇にネット状の膜をつくり、落ちにくい、におわない、軽い感触という機能性を持つこの商品は、やがて発売される「落ちない口紅」の礎となった。ちなみにこの口紅のキャンペーンソングは、南野陽子の「吐息でネット。」。この曲も大ヒットした。

さらに、1992年2月に発売したテスティモの「落ちない口紅」で待望の「落ちない」を実現。口紅のカラーバリエーションだけでなく“機能”をプラスしたことが大ヒットに。同年の日経優秀製品サービス賞最優秀賞を受賞した。

「落ちない口紅」のすごさは、発売後2ヵ月で189万本、1年間で499万本を売り上げたという圧倒的な数字から想像できるだろう。しかし、ここまでの売り上げを後押ししたのには、もう1つ理由があったと担当者は教えてくれた。

女性の社会進出、コロナ禍のメイク欲……爆売れのリップモンスターから紐解く落ちない口紅の背景_1

「リップ専用のクレンジング『リップカラークレンジング』を『落ちない口紅』の発売日と同日にリリースしました。落ちない口紅と、リップカラークレンジングを一緒に発売することで“(専用のクレンジングが必要なほど)落ちないんだ”という印象を世の中に与えることができ、説得力が増し、口紅市場でその新たなジャンルを開拓できたのだそうです」

1990年代、落ちないリップはなぜ求められた

ここで、もう1つの疑問が生まれる。そもそも落ちない口紅が、こんなにも世間から求められたのはなぜなのか。

その答えを、担当者は当時の社会情勢にあったと教えてくれた。

「1990年代に入り、女性の社会進出が急速に進んでいきました。そのため、オフィスで口紅の色落ちを気にする女性が増えたんです。

落ちない口紅が発売されたのは、その頃でした。落ちない口紅をつけていれば塗り直しのために何度も席を立つ必要がないというのが、ヒットした理由の1つなのではないかと考察します。女性の社会進出に伴う、ニーズを叶える商品だったんです」

女性の社会進出、コロナ禍のメイク欲……爆売れのリップモンスターから紐解く落ちない口紅の背景_2

カネボウ化粧品では、その後、1994年に「落ちにくさ33%アップ・うるおい2.5倍」とさらにパワーアップした「テスティモリップスティック(ラスティングⅡ)」を発売。こちらは2ヵ月で200万本の大ヒットを記録した。

さらに2年後の96年には「テスティモⅡ スーパーリップ」を開発。イメージキャラクターに男性アイドル木村拓哉を起用し、CM好感度No.1に。2ヵ月で312万本を販売し、落ちない口紅市場で不動の地位を確立した。

女性の社会進出、コロナ禍のメイク欲……爆売れのリップモンスターから紐解く落ちない口紅の背景_3

発売するたびに、記録をどんどんと塗り替えていったカネボウ化粧品の落ちない口紅。

色を乗せるだけだった口紅に「落ちなさ」を、そして「潤い」を両立させる技術を加え、真摯に向き合い続けてきたことが、現代の落ちないリップの土台になっているのだ。