成長戦略にとって“肝”となる部分がどうにも怪しい

それは高市政権の成長戦略にとって“肝”となる部分がどうにも怪しいからである。具体的には、何度も登場する「複数年度」の投資という点である。この投資については、現時点で「GX国債」を先例とするスキームが政府内で検討されている。

GX債とは、政府が2050年のカーボンニュートラル達成という国際公約と産業競争力強化・経済成長を同時に実現していくため、10年間で150兆円を超える官民投資が必要との観点から長期・複数年度にわたり「脱炭素成長型経済構造移行債」を発行するようになったものだ。

そもそも、GX債のフレームを描いたのは、現在は首相秘書官を務める飯田祐二元経済産業事務次官である。これはエネルギー特別会計から新設すると思われる。

新設とする理由は、財政規律を重んじる財務省とは距離を置く高市首相の意向もあるのだろう。「GX債」を先例に特別会計をいじれば、財務省から事実上「査定権限」を奪うことが可能になるからだ。

以前、最先端半導体の量産を目指しているラピダスへの支援のための特別会計法改正、そして「先端半導体・人工知能関連技術勘定」なるものがつくられたが、それと同じことになる。

償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」については、防衛関連費の増額分から持ってくることになるのではないか。

実際、自民党の安全保障調査会は国内総生産(GDP)比3.5%への増額を目指している北大西洋条約機構(NATO)などをにらみ、日本の防衛費増額の必要性を指摘する提言案を議論している。

財務省から査定権限を奪うことにつながる特別会計の活用

財務省から査定権限を奪うことにつながる特別会計の活用、そして防衛関連費の増額分がどうなるかは国民も目を光らせておくべきだろう。

怪しくなってきた「サナエノミクス」の正体…高市政権“初の成長戦略”原案に漂う「焼き直し感」と“サナエショック”不安_5

防衛力強化に向けた財源確保のための防衛増税は今年4月に始まったばかりだ。法人税、タバコ税が上がり、来年は所得税の増税が待ち構える。今後も防衛費が増額されていけば、その分の負担増は当然ながら国民が負うことになる。

首相は「悲願」とする飲食料品の消費税ゼロ化を目指しているものの、一方で他の税目が増えていくのであればトータルで本当に人々の負担感が和らぐことになるのか疑わしい。

首相は「強い経済」を唱えるものの、5月18日には新発10年国債利回り(長期金利)が2.800%と1996年10月以来29年半ぶりの高水準をつけた。

長期金利上昇は、住宅ローン金利の上昇を招くだけではなく、企業の経営にも影響を与える。日銀が保有している国債の含み損も巨大になるだろう。円安進行も止まらない。

4月29日にはニューヨーク外国為替市場で円相場が下落し、一時1ドル=160円台半ばをつけた。政府・日銀は円安是正のための為替介入に踏み切ったが、円安が進行すれば輸入物価が上昇し、国民生活を脅かす。

はたして、高市政権初の「成長戦略」はマーケットや国民からどのように受けとめられることになるのか。もしも、それが期待外れに終わり、長期金利のさらなる上昇や円安進行につながっていけば、「サナエショック」が起きない保証はない。今後は、日銀の利上げ実施のタイミングにも注目が集まりそうだ。

文/竹橋大吉 写真/shutterstock