人間が後世に遺せるものはなにか

山岡 須賀川さんは、戦場を駆け巡るお仕事をしていることに対し「なぜそういう仕事をされているのですか?」と聞かれたらどうお答えになりますか?

須賀川 自己満足、と言っています。自己満足であり、なおかつ、ちょっと硬い言い方になりますが、これまで取材で出会った人々に対する責任ですね。結局ぼくらは報道のために彼らのプライベートに土足でガンガン入っていって、直接救うことはできず、ヒット&アウェイですぐ帰ってくるだけじゃないですか。それでも過酷な状況の中、丁寧に対応してくれる人がたくさんいて、自分たちのことを伝えてほしいと願っている。

そういうつながりを重ねていくうちに、仕事じゃなくなってきたというか、むしろ彼らに自分が育ててもらっているようで、それに対する恩返しと責任が、ぼくの中では強くなっています。

須賀川 拓
須賀川 拓

山岡 なるほど。仕事というレベルを超えて、いっしょに生きていく、というような気持ちになられている。

須賀川 本当に、そうです。明日生きられるかどうかわからないような日々を送っている人たちに、なんで自分は元気づけられているんだろうと思いながらやっています。だけど、ぼくがなにか貢献できるかといったらたぶんできなくて、つらくなることもあります。

去年の6月にTBSを退社したひとつの大きな理由もそれでして、いまは発信するのと併せて、紛争地や難民がいる場所の社会課題と日本のビジネスをつなぐ仕事を始めようと、会社を立ち上げたところです。

だから……中村先生と自分のやっていることを比べるような話ではないけれど、この本を読んで死ぬほど元気づけられました。先生の生きざまに、背中を押されました。

山岡 それはうれしいな。いまのお話には身につまされる部分があります。われわれも取材するだけ取材して、あとは書きっぱなしみたいな世界でやっているわけですよ。極端なことを言うとね。それが果たして本当の当事者に届くか、というのはやっぱりずっと解決できない問題として抱えてきたわけです。中村さんがやってきたことは、事業としてなにかを残す、託すということの本当に中核の部分なんだろうなと、いま話をうかがっていて思いました。

須賀川 人間が死んだ時に残るものって、その人が集めたものじゃなくて、託したものだと思うんです、絶対。

山岡 まさにそうですよ。それこそ中村哲さんが影響を受けた内村鑑三の「後世への最大遺物」という講演で語られていることです。内村鑑三はその講演で、人間が後世に遺せるものはなにかと問うています。金か、事業か、本か、と列挙してその難点を説いた上で、誰もが遺せる最大遺物は「高尚なる勇ましい生涯」だとしめくくるわけですね。中村哲はこのことを終生踏み外さなかった。それが結果的にまわりを巻き込んでいく大きな力になったのだと思います。