公共放送の真の基盤は「受信機」ではない

さらに矛盾を露呈させているのが、NHKが強力に推進するネット配信サービス「NHK ONE」だ。放送法改正により、ネット業務は「必須業務」へと格上げされた。ネットの世界はプロバイダ契約や個別のログインが前提であり、実質的にスクランブル(個人認証)がかけられている。

「ネットは個別制御するが、放送は公共性があるからスクランブルは不可」と言う理屈が、情報リテラシーの高い現代の視聴者に通用するはずがない。ネット業務を拡大し、実質的な「公共メディア」へと肥大化しながら、都合の良い時だけ「放送法の解釈」を持ち出す。その不整合さが不信感を増大させ、さらなる「NHK離れ」を加速させている。

NHKの収入の大半は、今も国民が支払う受信料だ。広告に頼らない仕組みは、確かに独立性を守る盾となってきた。しかし既に、NHK自身が支払督促という民事手続きを強化しなければならなくなるほど、民意はNHKから離れている。

この事実を捉えず、受信料制度を「最上」と評価する会長の発言は、国民から大きく信頼を失墜するものだった。

一度失われた信頼は、裁判で勝訴しても取り戻すどころか、ますます国民の心はNHKから離れていくだろう。災害時に情報を発信しても、反発が先に立つようでは公共放送の役割は果たせない。

本来、公共放送の真の基盤は「受信機」ではなく「国民の信頼」だ。時代遅れの放送法に守られた受信料制度を「最上の制度」などと言うより前に、NHKが真の公共性を取り戻すために最も必要なことは何か、井上会長には今一度考えていただきたいと切に願う。

文/村上ゆかり 写真/shutterstock