NHK自身の調査データとも乖離する新会長発言

この発言はNHK自身の調査データとも乖離している。NHK放送文化研究所のデータ等を分析すると、1週間に一度もNHKを視聴しない層は若年層を中心に年々増加し、月間で一度もチャンネルを合わせない世帯は、全体の実質約3割から4割に達するという推計もある。明らかに井上会長の発言と事実に乖離があるのだ。

〈炎上〉NHK新会長「スクランブル化は最上でない」に批判殺到…“受信料強化”の裏にある組織防衛の本音_3

そもそも、「契約者のほとんどが視聴している」のが事実なら、今すぐスクランブル化を導入すれば済む話である。

それを「公共放送の役割と矛盾する」として頑なに拒むのは、「スクランブルをかければ、NHKを見ていない層の解約が相次ぎ、組織が維持できなくなる」という恐怖をNHK自ら感じているからではないか。

NHK会長はここ18年間、外部である民間企業から招へいされてきた。その背景には、NHKの不祥事が相次ぎ、NHKの組織改革が叫ばれ続けてきたためである。その状況下で今回、18年ぶりに内部からの会長が誕生している。

内部出身の会長が誕生した事実こそ、NHKの本質

本来、組織の膿を出し切り、抜本的な改革が必要な時こそ、しがらみのない外部の目を入れるのが定石だ。しかし現在のNHKが最優先したのは、「改革」ではなく、未収世帯急増という存亡の危機に対する組織防衛である。

井上会長による「督促強化」や「スクランブル絶対否定」は、公共放送の理想を語りつつも、その実態は、組織の仕組みを熟知した内部出身者だからこそ迷いなく実行できる、自己防衛策と言える。

国民の納得感よりも、現行の徴収モデルをいかに1円でも多く、1日でも長く維持するか。その「内向きにしか見えない論理」こそが、国民との溝を深淵にまで広げている正体ではないか。

これに対して、世界の公共放送は全く異なる道を歩んでいる。

かつてNHKがモデルとしたイギリスのBBCは、受信料制度(テレビライセンス料)の廃止を含めた抜本的な見直しが議論の俎上に載っている。フランスでは2022年に受信料を廃止し、一般税収などで賄う方式へと転換した。ドイツでも支払いに伴う不公平感から、制度のあり方が常に国民的な議論の的となっている。

世界的な潮流は「直接徴収」から「公費(税金)化」や「配信モデル」への移行だ。デバイスが多様化した現代、テレビの有無だけで一律に徴収する仕組みが限界を迎えているのは、万国共通の認識である。