普通の暮らしが奪われる

プリズンの独房には、時計がない。身に着けていた腕時計やスマートフォンは、拘置所に入るときに「預かり」の名目でとり上げられてしまうため、時刻を知る手段は失われる。

しかも、看守に現在の時間を尋ねても、「教えられない」とつき放される。独房にも取調室にも時計はなく、夕方にラジオ放送が流れるまでは時刻がわからない。

その理不尽さは、まるでカフカの小説の世界に迷いこんだかのようだ。こうして中の人は、時刻を目安にして行動することができなくなり、時間の感覚は徐々に薄れてゆく。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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その一方で、プリズンの生活は、厳格な時間割に従って進む。食事も午睡も体操も、看守の号令と放送によって、突然に始まり、突然に終わる。その理不尽な秩序の中で、中の人は時間割に従うことを強いられ、やがて自分の生活の主導権を失ってゆく。

この時間割がどのようなものかは、中の人には知らされない。それでも、250日間の観察から、横浜プリズンの当時の時間割をおおまかに再現してみた。

起床の音楽が流れて、プリズンの朝は始まる。中の人はめいめい、布団を片づけ、顔を洗ったりほうきで部屋を掃除したりする。

布団や毛布のたたみ方、文机や私物を置く位置は規則で定められており、片づけの際はその決まりを逐一守らされる。布団や毛布が規則と違う形にたたまれていると、看守から見とがめられ、注意される。

起床から10分ほど経つと「点検」が始まり、看守がふたりがかりでひと部屋ずつ回って点呼をし、中の人に番号を言わせる。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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「朝食」が終わってしばらく経つと、担当の看守が「願い事」を聴いて回る。誰かに何かを宅下げすること、書類に印鑑や指印を捺すこと、散髪をすること、出廷の際に書類やノートを持参することなど、何をするにも施設長宛てにお願いをする書類を書いて、許可を請わなければならない。

その後、看守が刑務作業の受刑者を連れて、洗濯物を回収しにくる。中の人は、あらかじめ部屋番号の書かれたゴムを渡されるので、洗濯したい服のタグなどにゴムを縛りつけて提出する。洗濯物は、1日に3点まで出すことができる。