相談窓口の「希少がんホットライン」

下山 一般に、がんといえば「5大がん」、すなわち肺がん・胃がん・大腸がん・肝臓がん・乳がんをイメージされる方が多いのではないでしょうか。これらは多くは粘膜由来の「癌」であることがほとんどで、切除する以外、基本的に薬で治すことはできません。

最近では免疫療法が発達して、一部では治ったんじゃないかと思うぐらい長生きする方も出てきました。ですが、それは限られた一部であって、基本的には薬では治らないと説明しています。よく言われる「ステージⅣ」とは、がんが離れた場所に転移している状態を指します。この場合、通常では手術は選択できないので、患者さんは末期だと受け取ってしまいます。

それに対して白血病や悪性リンパ腫の場合、血液のがんなので一カ所に留まることはなく、ステージⅣの状態が当たり前です。そもそも手術もしませんので、ステージⅣだから治療法がない、末期だ、などといった考え方は全くありません。漢字の「癌」か、肉腫なのか白血病なのかによって、治療法が根本的に違ってきてしまうわけです。だから原発不明がんの場合、治療の最初の第一歩として、まずはここをご理解いただく必要があるのです。

 ステージというと、がんの進行度合いであって重篤さを示すものだと思われがちですが、一概にそうとも言えないんですね。最近では「2人に1人ががんになる」とも言われ、切除して5年が経っても再発しない、寛解したという話も耳にするようになりました。割と身近な病気だと考えてしまいがちですが、実はすごく複雑な病気であることがよくわかります。

保雄の場合、入院してから3ヶ月近く検査を続けましたが、原因がわからなかった。がんも見つからなかったということは、かなり特殊だったのだと思います。そういった珍しいタイプのものは、診断できる方も少ないのでしょう。

入院してから3ヶ月近く検査しても原因わからないケースも(写真/Shutterstock)
入院してから3ヶ月近く検査しても原因わからないケースも(写真/Shutterstock)
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下山 希少がんの診断では、病理診断が重要です。希少がんに強い病理の医師は少ないです。臨床診断においても、原発不明がんの検査・治療は複雑で、専門性が高い疾患です。希少がんの専門家という医師はいないということで、例えば私は「希少がんセンター長」という肩書きですけれども、保雄さんのような疾患を院内で一番よく診ている専門家、というわけではありません。この領域に関していえば、当科であれば私の後輩である奥屋俊宏先生などが専門的に診ています。

 奥屋先生には保雄の主治医を務めていただきました。本の中にも書きましたが、「私の息子ほどの年齢」というぐらいお若いのに、この領域では下山先生よりも詳しいのですね。

下山 私も原発不明がんを診てきましたが、今は血液のがんである悪性リンパ腫を専門にしています。奥屋先生は国立がん研究センターで原発不明がんに関するトレーニングを積んで、スタッフとして実際に多くの症例を見てきています。ですから、私が最初に診断した後、うちの病院ではこの疾患への対応は奥屋先生が一番適していると判断して、入り口だけつくって彼に頼んだんですね。

これが希少がん治療の進め方です。つまり、ひとりの人間がすべてを診ることはできません。それぞれ細分化された専門家がいるので、まずはチームとして全体を診て、それぞれの分野に詳しい先生が集まって対応していく。そういうことを組織的にできるようにしたのが希少がんセンターなんです。

 国立がん研究センターの希少がんセンターでは、毎月2回ほど「希少がんMeet the Expert」というセミナーを開催し、動画でも配信していますね。希少がんに関する情報が本当に少ないなか、貴重な発信源となっています。

組織的な対応ということで言えば、もうひとつ紹介したいことがあります。国立がん研究センターに「希少がんホットライン」という電話相談の窓口があります。治療の相談をすべき先がどうしてもわからず、本当に困っている方からの電話を受け付けていて、現在では日本全国7か所で開設されています。今回の本を書くにあたり、取材を進めていて初めて知った存在です。

残念ながら、保雄は闘病中にここにたどり着くことができませんでした。希少がんや原発不明がんに関しての知識は圧倒的に少ないのが実状です。皆さんの近くでも、こうした情報を必要とする方がこれから出てくるかもしれません。その時に今回書いた本が、あるいはこうしたお話が何らかの形で役に立ってくれればと願っています。

構成/集英社学芸編集部


【参考】

本記事で紹介された、希少がんである、あるいは希少がんの疑いのある患者さんやご家族・医療者が相談できる電話相談窓口「希少がんホットライン」は、以下のリンクよりご確認いただけます。

https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/hotline/index.html

下山達医師が所属する「東京都立駒込病院 希少がんセンター」のホームページは以下となります。

https://www.tmhp.jp/komagome/section/center/kisho_gan_center.html

なお、YouTubeの「国立がん研究センター公式チャンネル」では、難治がん・希少がんをはじめ、様々な種類のがんに関する最新の情報や解説動画が配信されています。

https://www.youtube.com/@NationalCancerCenterJapan

また、希少がんホットライン、原発不明がんについては以下の動画で扱われています。

・国立がん研究センター中央病院患者サポートセンター希少がんホットラインについての紹介

https://youtu.be/dofzV5RdjnM?si=2Tp13yU2Y1mh5cdc

・国立がん研究センター×九州大学「オンライン 希少がん Meet the Expert」
第2回 原発不明がんて、どんな病気? どんな治療があるの?

https://youtu.be/xZ_SmvRV2ZI?si=_cPt5ePE9_7NvnYq

見えない死神 原発不明がん、百六十日の記録
東 えりか
見えない死神 原発不明がん、百六十日の記録
2025/10/24
2,200円(税込)
336ページ
ISBN: 978-4087817683

夫の突然の腹痛、そして入院。検査を繰り返すが、原因は不明。
ようやく診断がついたときには、余命わずか数週間。
「原発不明がん」とは、いったい何なのか?

第22回開高健ノンフィクション賞最終候補作

【各界から絶賛の声、続々!】
理不尽極まりない、まさに「見えない死神」。明日は我が身。震え上がりながら一気に読んだ。
――成毛眞氏(「HONZ」代表)

哀しみの底に沈みながらも、決して諦めない。検証し続ける。その圧倒的な想いの強さに胸うたれる。
――小池真理子氏(作家)

著者は、愛する人を「希少がん」で亡くすという個人的な体験を病の普遍的な記録にまで昇華させた。苦しみを同じくする人々や医療難民にとって必見の情報と知見がここにある。
――加藤陽子氏(歴史学者)

【本書の内容】
ある休日、夫が原因不明の激しい腹痛に襲われた。入院して検査を繰り返すが、なかなか原因が特定できない。ただ時間ばかりが過ぎ、その間にも夫はどんどん衰弱していく。
入院から3ヶ月後、ようやく告げられたのは「原発不明がん」の可能性、そして夫の余命はわずか数週間ではないか、というあまりにも非情な事実だった。

この「原発不明がん」とは、一体いかなる病気なのか?
治療とその断念、退院と緩和ケアの開始、自宅での看取り……。発症から夫が亡くなるまでの約160日間を克明に綴るとともに、医療関係者への取材も行い、治療の最前線に迫ったノンフィクション。

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