希少がんの研究は始まったばかり

 2025年に国立がん研究センターによって「新しい希少がん分類(New Classification of Rare Cancers)」が公開されました。ここにはカテゴリーAとBがあるんですが、どういうものなんでしょうか?

新しい希少がん分類(New Classification of Rare Cancers)
新しい希少がん分類(New Classification of Rare Cancers)

下山 かなり専門的な話になりますが、希少がんの定義は世界中でバラバラなんです。人口あたりのがんの数も、国によってかなり変わってきますから。また、昔は希少であれば何でも「希少がん」と言ったわけですが、より詳細に見ていくと、先ほどご説明したように「場所(臓器)が希少」であるパターンと「種類(組織)が希少」であるパターンがあるわけです。

たとえば、消化器のがんでも、小腸や肛門管にあるというだけで希少です。一方で、胃はがんが多い臓器ですが、大半は胃の粘膜から生まれたもの(腺癌)であり、胃の筋肉やリンパ組織から生まれるがん(それぞれ肉腫/リンパ腫)は稀です。だからこういう「生まれた臓器」が希少なものと、肉腫のように「組織が希少」というふたつのパターンがあります。

このように発生場所(部位)と組織のふたつに注目して、国立がん研究センターがここ2~3年の間に整理を行い、2025年に400近い希少がんを分類しました。これによって初めて希少がんの定義ができたので、国内においては研究対象が定まりました。しかし、海外では頻度も定義も異なります。希少がん研究というのは、実はまだこんな段階なんです。

 国立がん研究センターに拠点として「希少がんセンター」ができてから、まだ10年も経たないくらいですよね。

下山 そうですね。2017年の設立です。

 それまでは皆さん、それぞれバラバラに治療していたということですか。

下山 はい。昔は分類上の定義も明確ではなく、私の所属する駒込病院にも希少がんの患者さんがどれくらいいるのか、数さえ把握できませんでした。がん登録が整備され、希少がんセンターが始まり患者さんの数を把握できるようになった、まだそういう入り口の段階だということです。

私が所属しているのは腫瘍内科という、特にさまざまながんを診る部門です。昔は抗がん剤を専門とする医師がいなかったので、私の二代前の部長はすべてのがんを診ていたといいます。それこそ白血病から大腸がんまで、ありとあらゆるものです。そこから白血病、乳がん、肺がんなどが専門科に分かれていきました。今は腫瘍内科では消化器がん、膵臓がん、悪性リンパ腫、そして原発不明がんといった希少がんをメインに診ています。

2024年には駒込病院でも「希少がんセンター」を設立し、希少がんもしっかり診る、という方針を立てました。そうすると、これまで診てこなかったがんも積極的に診なければいけなくなります。

しかし、そもそも希少がんという性質上、専門医であっても過去に診たことがない、診ても1~2例というがんも多いわけです。なので、患者さんがイメージする専門家とは異なってしまう場合もあります。こうしたケースに対しては、キャンサーボード(医療機関内で複数分野の専門家によって行われるがんの治療検討会)で病理医、外科医、放射線科医、その臓器の専門医、薬物療法の専門医(腫瘍内科)が知見を集約し、方針を決めていくことになります。

患者さんからは、専門家と名乗っている以上はたくさん経験があるはずだ、と期待されていると思うので、それについては葛藤があります。もちろん原発不明がんや血液腫瘍など、昔からの多くの治療経験がある希少がんも存在するのですが。

実際、駒込病院で希少がんセンターを立ち上げる時には、国立がん研究センターの希少がん担当の先生に相談をしました。その先生も、「初めて診るがんは当然ある。最初は論文や学会報告から情報を得てやるしかない。誰もが最初は初めて診るがんになるので、しょうがない」と仰っていました。