「がんと闘う」というより「薬と闘う」日々
山田 僕は、がんそのものの自覚症状は今でもほぼないんですよ。痛いとか、苦しいとかはない。最初に痛かった腰も、腰椎転移に対する放射線治療が魔法のように効いて痛みがとれ、骨自体が回復するまで半年くらいコルセット生活を強いられましたが、抗がん剤の副作用に比べたらさほど苦ではありませんでした。
そうなると、「俺は一体、何と闘っているんだろう?」と疑問になってきます。がんと闘っているんじゃなく、抗がん剤の副作用と闘ってるだけじゃないかって。しかもその抗がん剤が効かなかった時は、本当に虚しくなりました。
東 薬の副作用というのは、気持ちが悪いとか身体がだるいとかですか?
山田 抗がん剤にもよりますが、以前打っていた薬は点滴後2〜3日ぐらいにドーンと落ちるんです。階段を上るのも座っているのもしんどくて、月の半分くらいは使い物にならなくなっていました。今やっている抗がん剤は最初は吐き気が強くて、ご飯を炊く匂いとかが全然ダメになって、娘に言わせると「つわりと同じ」症状が出ていました。
今は制吐剤を同時に点滴してもらっているので、そこまでひどくはありません。でも、外見には現れないけど実はいちばん辛いのは、手足の指の末梢神経障害です。指の第一関節から先の感覚が全くないので、原稿を打つにもミスタッチが増え、趣味の時計いじりやギターもできなくなってしまいました。
そんな感じで、副作用のせいで仕事にならない日もありますが、それ以外の日は気合いでなんとか乗り切れています。
東 その体力と精神力がすごいです。夫は、腸閉塞で絶食が続いたこともあり、本人も気がつかないうちにどんどん症状が悪化していったので、仕事どころではありませんでした。
山田 僕は最初にやった抗がん剤(カルボプラチンとパクリタキセル)が割と効果があって、腫瘍がだいぶ小さくなったんですよ。だけど、6ヶ月やったところで、CA19-9(膵臓・胆道系のがんの診断補助や治療経過の観察に用いられる腫瘍マーカー)の数値が上がり、抗がん剤を変更するか、治療を中止するか、という話になって。主治医と相談して、休薬するより保険適用になった「オプジーボ」を試してみることにしました。
実は、その前にゲノム検査(注)をやって、オプジーボが効きにくいという結果が出ていたんですが、試しにやってみようと。最初は副作用も軽くて、「いいな」と思っていたんですが、39度ぐらいの謎の高熱が頻繁に出るようになった上に、画像診断をしたら全然効いていなかったので、結局やめました。
注 ゲノム検査(がん遺伝子パネル検査)は、数十から数百個の遺伝子の変化を一度に調べることでがん細胞の特徴を知り、患者さんに適した治療法を検討するための検査です。
下山 オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞の遺伝子変異の数が多い人に効きやすい傾向があるので、 事前に遺伝子検査を行って、効果が期待できそうかを予測できます。山田さんの場合、遺伝子変異の数を調べて効きにくいという結果が出ていたわけですね。
そこは、医師としても悩みどころなんです。遺伝子検査では効きにくいとわかっていても、一部の患者さんには効くことがわかっています。その可能性を捨てていいのか、という判断で投与に踏み切ることはあります。予測検査は万能ではないため、効くか効かないかはやってみないとわからないのが現状です。
東 夫はオプジーボよりも先に抗がん剤をやって、1クール目はまあまあ良かったんですけど、2クール目の途中で感染症になってしまったので、治療はそこでストップせざるをえませんでした。
下山 原発不明がんに対する効果を考えると、最初に行う抗がん剤治療の効果が3割ぐらいで、オプジーボは2割ぐらいと言われているので、抗がん剤の方が効く人が多いわけです。ですから、山田さんも治療の順番はそれで良かったのだと思います。















