“変わらないこと”が由伸の強み
山本という投手を語る際、評論家が口をそろえるのは、やり投げの動きを取り入れた練習やブリッジといった、従来の野球界の常識を覆すトレーニング理論だ。しかし、23年のWBC合宿で行動をともにした牧が驚かされたのは、その特異な手法そのものではなく、それを遂行する意志の強さだった。
「技術的なことは僕には詳しくはわかりませんけど、それ以前の問題として、とにかく事前の準備が徹底しているんです。侍ジャパンのとき、他の選手たちがウエイトトレーニングや、各自のメニューをしているなかで、由伸だけは朝早くから、決まったルーティンを毎日こなしていました。それだけは絶対に崩さなかったですね」
山本のルーティンは、単なるウォーミングアップの域を超えている。自分の体を精密機械のように調整し、常にベストの状態に持っていくための〝儀式〟に近い。周囲の雑音を遮断し、自分だけの世界に没入する集中力こそが、マウンドでの圧倒的なパフォーマンスを支えているのだと牧はいう。
「どんなに環境が変わっても、山本由伸は山本由伸という感じですかね。日本でも、メジャーでも、同じことを毎日続けている。“変わらないこと”が、由伸の強みなんだと思います」
今では気心の知れた仲だが、牧にとって山本は、プロ入り前から追いかけるべき大きな背中でもあった。入団会見で対戦したい投手として名を挙げた山本との対戦は、1年目のオープン戦でさっそく訪れる。
21年3月5日、横浜スタジアムでのDeNA対オリックス、ルーキーながら3番に座った牧は、1回裏2死で打席に入る。初球、山本の投げ込んだ151キロの変化球を振り抜くと中前への安打となった。3回の2打席目は外角低めに決められたカットボールに手が出ず、念願の対戦は2打数1安打だった。
「オープン戦だったので、まっすぐが中心になるのかなと思ったんですけど……。ボールのキレはもちろんですが、何より驚いたのは球の重さ。ただ速いだけじゃなくて、鉛のような重くて強いボールを投げていた。フォークボールも、打者の手元で急激に重力が増したかのように落ちるし、強烈でした」
取材・文/石川哲也













