優れたエリートであっても、複雑な社会のすべてを見通すことはできない
チームみらいは、AIなどの先端産業に対して、国が積極的に成長投資を行うべきだと発信している。しかし、この「選択と集中」という考え方もまた、慎重な目で見られている。
本来、どの産業が伸び、どの技術が世界を変えるかは、自由な競争の中で決まっていくものである。政府が「これからはこの分野だ」と決めて多額の税金を注ぎ込めば、その分野だけが不自然に成長し、健全な競争が損なわれてしまう。
実証的にも、理論的にも、歴史的にも、政府による市場の先取りは失敗を繰り返してきた。
どれほど優れたエリートであっても、複雑な社会のすべてを見通すことはできない。それにもかかわらず、政府が投資家として主導権を握ろうとすることに、計画的な管理に近い危うさを感じる人々がいる。
彼らにとってチームみらいの政策は、市場の自発性を信じるのではなく、政府による「賢い設計」を信じすぎているように映るのである。
浮かび上がる「極めて深刻な構造的欠陥」
「大きな政府か、小さな政府か」という、近代政治が長年向き合ってきた二元論に対し、チームみらいが提示する「状況に応じて伸縮する政府」という解は、一見するとテクノロジー時代の最適解のように映る。
AIやデータ分析を駆使すれば、危機の際には迅速にリソースを投入し、平時には速やかに身を引くという「機動的な統治」が可能であるかのように思えるからだ。効率性を至上命題とするビジネスの視点から見れば、これは極めて合理的なリソース配分に見えるだろう。
しかし、この「伸縮自在」という理想を、権力の監視という民主主義の根本原則から見直すと、極めて深刻な構造的欠陥が浮かび上がる。政治学や経済学の世界で古くから知られる「ラチェット効果(歯止め効果)」という概念が、その懸念の正体だ。
これは、政府の権限や支出規模は、特定の危機の際、ラチェット(逆回転防止の歯車)が回るように一気に拡大するが、危機が去った後も決して元の水準には戻らないという不可逆的な性質を指す。
この現象の実証的な裏付けとして、経済史家ロバート・ヒッグスの古典的理論「ラチェット効果」が広く引用される。ヒッグスは1987年の著書『Crisis and Leviathan: Critical Episodes in the Growth of American Government』で、危機(戦争、恐慌、テロなど)時に政府の権限・支出が急激に拡大し、危機が去った後も一部しか縮小せず、元の水準に戻らない「歯車のように一段高いレベルで定着する」メカニズムを体系的に説明した。
この枠組みは、20世紀以降の米国政府成長を説明する主要なパラダイムとして、多くの研究で支持されている。













