AIが人間の知性を超えた時にアイデンティティクライシスに陥る可能性がある

――設立したチームみらいで掲げられています「テクノロジーで誰も取り残さない日本へ」というミッションを形にするために、#1では3つの必要なことを挙げられました。その第1が「民間企業で当たり前のデジタルをしっかり行政に持ち込む」です。行政は当たり前のことができていませんか?

安野貴博(以下、同)
 行政手続きで実際に役所に行かないといけないことがたくさんあります。例えば妊娠、子育てで大変な時期に母子手帳を受け取るとか。明らかにデジタルでできることをやっていないわけです。

確定申告も、例えばエストニアでは制度自体がなく、データで紐付けされた銀行口座から税金が自動的に引き落とされています。

政治資金の透明化もそうです。政治資金収支報告書を政治団体の銀行口座とクレジットカードの記録を紐づければ、カネの出入りをリアルタイムに公表することすらできます。

そういう「デジタル時代の当たり前」は民間ではすでにやられています。「チームみらい」では、収支をリアルタイム公開するためのシステムを作っています。オープンソースでどの政党でも使える仕組みにしていく予定です。

自身も夏の参院選に比例代表で立候補するとしている安野氏
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――第2は「変化に対応できる仕組みづくり」です。これは具体的には?

世の中が変わるスピードが20年前よりも明らかに速くなっています。トランプ関税やコロナパンデミック、AIが人間の知性を超えるかもしれないという変化もあります。

これらは雇用に大きく影響し、変化に機敏に対応できる社会を作らないとまずいというのが問題意識です。

例えば、税制では基礎控除の「103万円の壁」の話がありました。多くの政治家やメディアのリソースをめちゃくちゃ消費して(壁を)動かしました。動かすのが150万円でも160万円でもいいですけど、合意の対象を「絶対値」にすると今後物価が変わった時に、同じ話をまたやらなくちゃいけなくなります。

カナダの児童手当の場合、消費者物価指数と連動して給付額が上下します。物価が動く度に給付額で合意する政治的コストをかける必要がない。このように状況が動いても大丈夫な仕組みが必要です。

「デジタル時代の当たり前を政治の世界でも」チームみらい・安野貴博党首(34)はどんな子どもだったのか? モテましたか? _2

――3つ目に「長期成長できるものに重点投資する」とおっしゃってますね。

これは主に3つです。まず「人づくり」、つまり子育て、教育のことです。人をつくる投資は長期で回収される本当に合理的な投資です。日本は対GDP比でみれば教育にお金をかけていない。世界トップレベルの対GDP比の投資をした方がいいと考えています。

次に「研究、産業づくり」です。人口が増えず、天然資源も多くない日本が経済成長するには科学技術でレバレッジするしかありません。テクノロジーをしっかり活用し、イノベーションをどんどん起こしていくことでしか経済成長は実現し得ないでしょう。

そこにちゃんと投資すべきで、60年代や70年代の高度成長期はそれができていた。ソニーやトヨタ、いろんな会社がガンガン成長し新しいサービスもどんどん出てきたから強かったので、そこへの投資がされないとまずいです。

――そこは意外とオーソドックスですね。

そうですね。だからこそ、めちゃめちゃ重要なことだと思います。

最後は「文化振興」です。経済的理由と精神的な理由の2つがあります。経済的な面では例えばアニメ、マンガコンテンツ産業は輸出し富を作れるものなので、しっかり投資していこうと。

精神的なところも非常に大きいです。今後AIが人間の知性を超えた時に「人間って何のために生きてるんだろう」というアイデンティティクライシスに集団として陥る可能性があります。

そこでわれわれの尊厳を維持するために文化振興は経済的な価値を超えて重要性が増していくんじゃないかと考えてます。