学力だけで説明できない女子の進路

進路選択が男女で異なるのは、入試システムによるものだけではない。高校生自身のジェンダー観や学校の教育方針によって、女子高校生の進路や将来の展望が異なることも明らかにされてきた。

「進学校」と呼ばれる高校へ進学すると、おのずと大学へ進学するよう方向づけられる(トラッキング)。

ところが、女子の進路に詳しい教育社会学者の中西祐子は、『ジェンダー・トラック』において、学業成績によるトラッキングだけでは説明できない進路選択が女子には存在することを明らかにした。

学力偏差値で上位に位置づく私立女子高であっても、固定的な性別役割観をもたない生徒の多いX高校は、家庭科や特別活動の時間が少なく、校風や卒業生イメージが「キャリア女性の養成校」といった特徴をもつ。

それに対して、固定的な性別役割観をもつ生徒が多いY高校は、ノン・アカデミック科目(家庭科・体育科・芸術科・特別活動)の必修時間が多く、校風や卒業生イメージが「良き妻、良き母親、家庭夫人の養成校」といった特徴をもつ。

写真はイメージです (写真/Shutterstock)
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大学進学希望も両校で傾向は異なり、人文科学系志望者はX高が約20%、Y高が約35%、医学部志望者はX高が約30%、Y高が約7%であった。「就業を定年まで継続」の希望をもつ割合は、X高が約52%、Y高が約26%であった。

特定の性別役割観をもつ家庭層の生徒が、特定の高校へ偏って入学することも考えられる。しかし、中西によると、生徒の進路選択に対して高校の影響力が家庭の影響力を上まわっていたという。

生徒がもつジェンダー観、学校の教育方針や伝統、卒業生イメージのジェンダーによって、学業成績だけではない女子特有の進路選択、「ジェンダー・トラック」が生じていたのである。

吉原、中西の研究から、学力水準とは別の論理が、女子の進路選択を方向づけていたことがうかがえる。いずれも1990年代の研究であり、1990年代後半以降、女子の大学進学率は上昇し続け、男子との差は縮まっていることを考えると、現在の大学進学にこれらの議論が即座に該当するわけではない。

しかし、現在も学力水準だけで進路選択が行われていないことが、複数の研究からわかっている。端的に述べるならば、入試選抜度の高い「難関大学」への進学、浪人の選択、学部学科の選択、これらが男女で異なっている。

脚注
*1 日下田岳史(『女性の大学進学拡大と機会格差』東信堂、2020年)によると、女性は男性と比べ奨学金収入が少なく、家庭からの給付額は多い。
*2 「将来就きたい職業」など、経済的理由以外で大学進学を目指すことも考えられるが、「将来就きたい職業」もまた、大学以外の進路選択へつながっているのである。
*3 2018年3月に高校3年生975名を分析対象とした結果であり、対象者の7割強が大学進学、あるいは大学等の進学準備となっている。短大や専門学校等に進学した者、就職した者も含まれている(野﨑友花「高校生活の振り返りと進路選択―『卒業時サーベイ』の主な結果から」、東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所(編著)『子どもの学びと成長を追う―2万組の親子パネル調査から』勁草書房、2020年)。

なぜ「地方女子」は呪縛になるのか
寺町 晋哉
なぜ「地方女子」は呪縛になるのか
2026年1月17日発売
1,045円(税込)
新書判/208ページ
ISBN: 978-4-08-721394-2


大学進学において、生まれ育った地域、性別、通っている高校、保護者の学歴など、特に多くの壁=社会的諸条件を乗り越えなければならないのが「地方女子」。
個人の努力や意志の問題に矮小化すると、「壁を乗り越えられないのは自己責任」という重荷を子どもたちに背負わせかねず、「地方女子」を呪縛にしてしまう。
選択の背景にある「当たり前」はどのようにつくられているのか──。
本書では「地方女子」の置かれた現状を教育、制度、経済、社会意識、ジェンダーなど多角的な視点から分析し問う。

【目次】
序章 「地方女子」は「呪縛」なのか?
第1章 「地方」からみた大学進学
第2章 どのように”女の子”になるのか
第3章 理系から遠ざけられる女子たち
第4章 女子はなぜ四年制大学へ進学しにくいのか?
終章 「地方女子」を呪縛にしないために
あとがき

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