立ち食いそばと立ち食いラーメンの決定的な違い
閉店を前に、私も改めて店を訪れた。
ラーメンは620円。生憎、千円札や小銭を持ち合わせておらず、どこかで崩してから戻ろうと思った瞬間、店員さんが声をかけてくれた。
「両替しますよ!」
さらに驚いたのは、両替前に注文を聞かれたことだ。そして両替し、食券を買っている間に、ラーメンはすでに完成していた。
このスピード感は偶然ではない。電車を待つ人や乗り換えの人が客層である以上、提供時間を1秒でも縮める必要がある。そのための工夫が、動線の隅々まで行き渡っている。
具はチャーシュー、メンマ、ネギ、ナルト、ワカメ。麺は中ストレート。鶏が下支えしたスープに、まろやかな醤油。いわゆるノスタルジックな味わいだが、不思議とまた食べたくなる。チャーシューもきちんと旨い。
立ち食いそばと立ち食いラーメンの決定的な違いについて、老舗製麺所の丸山製麺・取締役の丸山晃司さんはこう語る。
「立ち食いラーメン店が少ない理由は、麺の茹で置き(事前に茹でておくこと)ができるかどうか、という点が大きいと思います。
駅そばは、生蕎麦を茹で置きして使うことが多いですが、ラーメンで茹で置きをしているお店は、なかなか聞きません」
駅ホームという限られた時間の中では、茹で時間の短縮が不可欠だ。しかし中華麺は、茹で置きに向かず、小麦が溶け出した湯の管理も難しい。
「個人商店としては、来店人数の減少、原材料費の高騰、働いている方の高齢化などもあり、かなり厳しくなっている印象です」
こうした条件を考えると、「西新井らーめん」が半世紀以上続いたこと自体が、ほとんど奇跡に近い。
山本剛志さんは、現在の駅の変化をこう整理する。
「どこの鉄道会社も、安全対策をしながら人員削減を進めて、経営資源をエキナカ施設のほうに移しています。時刻表や時計も外す方向です」
こういった流れの中で、ホーム上の飲食店は構造的に居場所を失っていった。
「永田町の『東京とんこつ』や、西荻窪の『よしかわ』のように、ホームではないエキナカ店は、今後も増えていくと思います」
実際、ラーメンは駅から消えたわけではない。ただ、場所を変えただけなのだ。













