一極集中が続けば境界線は壊滅する
内田 低賃金で過労死レベルの長時間労働を強いられ、精神的に壊れそうな環境にいる人たちの中は、ある程度の経済的支援さえあれば「もう田舎に帰って農業やる」という選択をする人がきっと少なからずいると思います。
どこに住んでも、レベルの高い医療とレベルの高い教育環境が担保されており、就労機会があり、ある程度の経済的インセンティブが提示されるなら、人口の地方移住は起こると思います。それを政治主導で行わない限り、一極集中は加速するばかりです。今、首都圏の人口は4400万人です。日本人の三分の一が東京、神奈川、千葉、埼玉に集まっている。
これは異常な数です。放置しておけば、いずれ5000万になり、6000万になる。あとは限界集落か無住地になってしまう。たとえ限界集落でも、人が一人でも住んでいると野生は急激には襲ってこないんです。でも人口ゼロになった瞬間に一気に来る。集落が道路も含めて丸ごと「山に呑まれる」ということが起きる。
青木 最近は熊の被害がメディアを盛んににぎわせ、背景には他にさまざまな要因もあるでしょうが、境界線が決壊して野生が侵食してきた証左なのは明らかでしょう。
内田 文明と野生の中間が里山で、そこが緩衝帯になっていた。でも、里山が人口の一極集中で、消失し始めた。緩衝帯がなくなって、野生と都市が直接接触するという前代未聞の事態が生じた。だから、もう一度その緩衝帯を再構築しなければならない。それは農業や林業なんですよ。農業や林業の作業で人が山に入れば、緩衝帯ができる。
僕の友達で京都の林業家がいます。彼に訊いたら、山仕事を60年間やっていて、生涯に熊に会ったのは一度きりだというんです。大きな岩の上で昼寝していたらその横を熊が通った気配がしたという。それ以外は、彼が一人山奥に入っているときでも、人間が何か作業をしている限り、熊は寄って来ない。そういうものだったそうです。でも、その基本が崩れ始めた。















