「高所得」であるがゆえに、公的支援から弾かれる現実

実は彼女は高所得であるがゆえに、公的な支援制度のほとんどから弾かれてしまうのだ。

「私は年収1200万円のため、所得制限により児童扶養手当・ひとり親控除・各種支援制度を一切受けられません」と初野さんは語る。ひとり親家庭を支えるセーフティネットは、彼女には存在しないのだ。年少扶養控除の廃止と引き換えだったはずの児童手当も2024年10月まで所得制限がついていた。

しかも、彼女は養育費をもらっていない。未婚で出産し、その後、裁判所で審判を経て父親に強制執行まで行なったが、相手から養育費を1円も回収できていないという。

「養育費がちゃんと支払われていれば、ひとり親の生活はここまで心配いらないはずです。でも、今の日本では相手が資産を隠したり、仕事を転々とされると回収が事実上不可能になってしまう。結局、すべてのリスクをひとりで背負う構造なんです」

それでは民間の医療保険で備えればよいのではないか。ポストにはそのような反応もあった。しかしそこで立ちふさがる障壁が、がんの既往歴だ。初野さんは過去にがんを経験しているため、民間の医療保険には加入できなかった。会社の団体保険ですら、加入を断られたという。

「本当に何も入れないんです。だから、私にとって最後の砦は、国の高額療養費制度しかありません」

公的支援はなく、養育費もゼロ、民間の保険にも頼れない。そんな状況で、6歳の息子をひとりで育てながら、なんとか貯蓄をし、自身の再発リスクと向き合う。最後の命綱であるはずの公的医療制度が、今、その負担を増やそうとしているのだ。

もし、がんが再発したらどうなるのか。今回の制度改悪は、初野さんのような状況にある人々にとって、治療の選択肢そのものを奪いかねない。

実は医療費の自己負担上限額は、収入が高かった前年や前々年の所得を基準に決められる。病気になったときに傷病手当金の支給はあるが、もちろんその額は普段の給料に及ばない。その収入減の状態で、新しい制度における最高水準の負担(年間上限168万円)を求められる可能性がある。

「収入が減った状態で168万円を払わなければいけない。年をまたげば2倍です。それに加えて、差額ベッド代など様々な出費も重なります。一体いくら貯金しておけばいいのか。『貯蓄をしとけば大丈夫じゃん』という反応をされても、全然大丈夫じゃないんです」

彼女には住宅ローンもある。そして何より、これから本格化する息子の教育費がある。都内で子育てをする中で、中学受験や大学進学も視野に入れれば、莫大な費用がかかることは避けられない。

「もし、息子が高校生や大学生の、一番お金がかかる時期に再発してしまったら……。絶望感と、なすすべがないという無力感に襲われると思います。そして、息子の将来と私の治療を天秤にかけなければならなくなります」

その時、彼女はどちらを選ぶのか。答えは、冒頭のXの投稿に記されている通りだ。

「間違いなく息子の将来を取ると思います。大学をあきらめたり、中退させるなんてことは絶対にしたくない。そうなれば、私は治療をあきらめることになるでしょう」

初野さんと息子さん(写真/初野さん提供)
初野さんと息子さん(写真/初野さん提供)

それは、彼女自身の選択かもしれない。しかし、その過酷な選択を個人に強いる制度とは、一体何なのだろうか。