闇市で手にいれた“乾いた蕎麦”をプレゼント…終戦後の淡い恋の思い出
青春時代を取り戻すかのように、終戦後は恋もした。
共通の知人を通じて知り合った“くにちゃん”に淡い恋心を抱いた。「真面目で普通っぽい感じが素朴でかわいらしいと思ったんだよなー」といい、闇市で手にいれた“乾いた蕎麦”をプレゼントするなど必死にアピールを続け、ついにくにちゃんに告白した。
しかし、くにちゃんからは「結婚前提だったらお付き合いします」という返答が…。結婚という2文字に覚悟が決めきれず、「そんなら嫌だ」と自ら交際を断ってしまったという。
「まだ自由でいたいし、もっと遊びたいし、結婚はまだしたくなかったんだよ」
と、石井さんは笑う。しかし、くにちゃんが“乾いた蕎麦”を一緒に食べた友人の“ちえちゃん”こと千恵子さんと不思議なご縁で結びつき、石井さんは26歳で結婚することとなった。2人の子どもにも恵まれ、1956(昭和31)年には現在の場所で「石井サイクル」を開業した。
妻の千恵子さんが約30年前に他界してからは、たった一人で店を切り盛りしている石井さん。激動の時代を乗り越え、103歳となった今、改めて今後の目標を聞いてみると、
「目標はない。もう、いつなくなっても後悔はない。やりたいことはもう全部やったしね。だから客が来たって来なくたってどうでもいいんだ。それでも俺は死ぬまで、生涯現役だよ」
そう力強く語った石井さん。これまでの103年には、穏やかな道もあれば、思わず足が止まりそうになる急こう配の道もあっただろう。それでもハンドルを握り続けた石井さんは、きっとこの先も、確かなリズムで自分の道を走り続けていく。
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取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部特集班















