現在の米中対立は「クラウド領主」をめぐる覇権抗争だ!

――終盤には、テクノ封建制からの脱却案も提示されています。

大澤 バルファキスの筆致には誠実さを感じますね。そこまで「テクノ封建制はこんなにひどい!」と分析してきたわけだから、「じゃあどうしたらいいのか?」という疑問が当然ながら読者からは出ます。それに対して彼は、完全な解決策とまではいかないにせよ、一つの方向性、ある種のオルタナティブな社会像を示しています。

きっかけとなるエピソードも巧みです。ある日、パブで自称「筋金入りの保守派」のイギリス人に、「もし現状が気に入らないなら、なにと取り替えるんだ? それはどう機能する? さあ、いくらでも聞いてやる。俺を納得させろ」(『テクノ封建制』p.237-238)と言われて、彼はまったく答えられなかった。

いまの日本でもよくネットなどで見られる、「文句を言うなら代案を出せ!」というやつですね。その言葉がずっと引っかかっていて、本書の提案につながっていくんです。

ネタバレになるのであまり詳しくは言いませんが、本の終盤では、たとえば企業を生産協同組合のような形にして民主的に運営する、という構想をスケッチしています。これはそれまでの封建制的構造の分析とは少し切り離されていて、どれだけ実現可能かという議論は別にあるでしょうけれども、「問題提起だけで終わらせない」という点において、非常に意義のある部分です。

最後にもう一つ言い添えておくと、この本は現代社会を理解するうえでも実によい示唆を与えてくれます。たとえばいま、米中対立が重要な国際政治の軸になっているわけですけど、それがどうしてなのかということもこの本の視点から答えが見えてきます。

つまり、真にグローバル規模のクラウド領主、つまり全世界レベルでユーザーを持つウェブ・プラットフォームサービスの所有者というのは、実質的にはアメリカと中国にしかいない。もちろん中小のプラットフォームは他国にもありますが、本当に世界規模で覇権を争えるレベルのプレイヤーはこの二国にしかいないんですね。

「動画も無限に観られて、何でもクリック一つで購入できる」...便利な生活の中で気づかぬうちに自由が奪われ続ける“テクノ封建制”の真の恐怖とは_4
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だからこそ、現在進行形で深まりつつある米中対立の背後には、クラウドをめぐる覇権争いがある。相手を「グローバルな覇権的クラウド領主」にさせないための闘いが進行しているのだという見方は、非常に腑に落ちます。

こうした枠組みに沿って考えると、いまの政治や経済の動きも一段とクリアに見えてくる。そういった意味でも、この本は単なる理論書ではなく、現代社会を読み解くための強力な視点を与えてくれる一冊だと思いますね。

構成/斎藤哲也 写真/Shutterstock

テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。
著者:ヤニス・バルファキス、解説:斎藤 幸平、訳者:関 美和
テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。
2025年2月26日発売
1,980円(税込)
四六判/320ページ
ISBN: 978-4-08-737008-9

◆テック富豪が世界の「領主」に。
◆99%の私たちを不幸にする「身分制経済」
◆トランプ&イーロン・マスク体制を読み解くための必読書

グーグルやアップルなどの巨大テック企業が人々を支配する「テクノ封建制」が始まった!
彼らはデジタル空間の「領主」となり、「農奴」と化したユーザーから「レント(地代・使用料)」を搾り取るとともに、無償労働をさせて莫大な利益を収奪しているのだ。
このあまりにも不公平なシステムを打ち破る鍵はどこにあるのか?
異端の経済学者が社会の大転換を看破した、世界的ベストセラー。

【各界から絶賛の声、続々!】
米大統領就任式で、ずらりと並んでいたテック富豪たちの姿に「引っかかり」を感じた人はみんな読むべき。
――ブレイディみかこ氏

テクノロジーの発展がもたらす身分制社会。その恐ろしさを教えてくれる名著。
――佐藤優氏

これは冗談でも比喩でもない! 資本主義はすでに死に、私たちは皆、農奴になっていた!
――大澤真幸氏

私たちがプレイしている「世界ゲーム」の仕組みを、これほど明快に説明している本はない。
――山口周氏

世界はGAFAMの食い物にされる。これは21世紀の『資本論』だ。
――斎藤幸平氏

目次
第一章 ヘシオドスのぼやき
第二章 資本主義のメタモルフォーゼ
第三章 クラウド資本
第四章 クラウド領主の登場と利潤の終焉
第五章 ひとことで言い表すと?
第六章 新たな冷戦――テクノ封建制のグローバルなインパクト
第七章 テクノ封建制からの脱却
解説 日本はデジタル植民地になる(斎藤幸平)

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