未来の現実をノートに描く
「10年後の自分のある1日の様子を書くってことだよね?」
僕はそうジムに聞きました。少しずつ要領を摑めるようになってきたような気がします。なるほどです。確かに僕は自分の現実のことを知ってはいました。でもぼんやりです。毎日、毎月いくらかかっているのか、それを数字で明確に知ろうとほとんどしていなかったのですから今となっては驚きです。それでどうやって生きていたんだろうとすら、今は思っちゃってます。ジムの思う壺なんでしょう。
今の今、僕が毎日、どのような時間を過ごしているのかなんて、おそらく一度もノートに書き記したことはありません。もちろん、日々の予定を手帳に書き込んではいました。何日に何をするのかは、書いていたんです。でも1日のうちで、24時間をどのように割り振って生きているのかは考えたことがありませんでした。こんなに当たり前のことなのに、です。
そんな調子で仕事ができるでしょうか。確かにバイトであれば問題ないのかもしれません。何時に何をするってことがそれなりに決まっているし、僕もいつでもそれを書き記すことができます。とは言っても、23歳の僕はこれまでほとんどバイトですらやったことがありませんでした。時々、イトーキという事務用家具の組み立てと配置をする日雇いに行っていました。日給1万円の仕事、でもそれくらいです。
「恭平は何をする人になりたいんですか?」
「え、俺は……、建築家を目指してたけど、今は本を書く人になりたいんだよなあ。音楽家にもなりたいし、それに絵を描くのも好きだしなあ。それってなんて言えばいいんだろうね。《将来の夢》ってことだよね」
「だから、《将来の夢》なんか必要ないですよ」
「あ、そっか」
「夢なんか必要なくて、必要なのはいつだって、《将来の現実》ですよ」
「将来の24時間だね」
「はい。何時に起きたいですか?」
「朝5時には起きたいね。朝から好きなことやっているとマジで幸せな気持ちになるからね」
「大事ですね。じゃあ朝5時に起きましょう。あの恭平……」
「ん?どうしたジム?」
「《将来の現実》に、面白くないことは1秒も入れないでくださいね」
「それはびっくりだけど、ただひたすら嬉しい命令だね」
「命令は楽しいことだと嬉しくないですか?」
「嬉しい(笑)。よし、絶対、嫌なことは将来の24時間に入れない」
「何が一番嫌ですか?」
「バイトすることかな」
「じゃあ、人からやりたくないのに命令されて働く時間はもう完全に除去してくださいね」
「はい、感情的ではなく、事務的に排除します」