上のクラスにいけばいくほど、中国人の子たちが目立つように
「上のクラスにいけばいくほど、中国人の子たちが目立つようになりますね」
大手進学塾SAPIXで講師を務める男性はしみじみと語る。SAPIXといえば難関中学への圧倒的な合格実績で知られ、開成や麻布、桜蔭などの超難関校では合格者における占有率が50%を超える。
こうした難関校を受験し、合格を勝ち取るために用意されたのがSAPIXの生徒の中でも成績上位者が選抜されるαクラスだ。いわば、日本社会でエリート街道を歩むために用意された「特等席」。近年、このαクラスで、中国系の名字の子が増えているという。
男性が務める校舎では中国にルーツを持つ生徒の数は「1割いるかいないか程度」だというが、前述の通り、上位クラスにいくほど存在感は大きくなるという。それらの子のほとんどは両親とも中国人で、家庭内での使用言語も中国語。
日本語しか使わない中学受験では不利になるはずだが、「家庭での勉強量がすごい。宿題はもちろん、復習もしっかりやっていますね。地頭うんぬんというより、親の管理がしっかりしている印象の子が多い」と語る。
SAPIXにおける親の管理といえば、日本でもたびたび話題になるのが教育ママの存在だ。塾で配られる膨大な量のプリントを分別・保管し、宿題の進捗をチェックし、子ども以上に親が受験にのめり込むという例は枚挙にいとまがない。
最近ではエクセルを使って子どもの成績を管理する「エクセルパパ」という言葉も誕生し、受験熱の過熱の象徴となっている。
一方、日本人のこうした取り組みが「個人戦」であるのに対し、中国人は「集団戦」だ。日本のLINEにあたる中国のチャットアプリWeChatでは、SAPIXに子どもを通わせる親によるグループが作成され、月々のテスト対策から授業でつまずきやすいポイント、過去問の共有など、さまざまな情報が流通しているという。
「彼らの間では中学受験を最短距離で駆け抜けるためのノウハウが蓄積されており、無駄がなく洗練されている」(前述の講師)
開成、桜蔭、筑駒へ…「日本よりも中国のほうが断然厳しい」
無論、ノウハウだけでトップを維持できるほど中学受験は甘い世界ではない。ここで物を言うのが、家庭学習の量だ。
「学校の同級生がゲームで遊んでいる間も、ひたすら勉強しろと言われ続けた」と、都内の名門私立中学に通う中国籍の中学生は自身の小学生時代を振り返る。
テストの点が悪ければ睡眠時間を削って勉強するのはもちろん、小学校を休んで塾の勉強をしたことさえあったという。これも中国人の家庭では珍しい話ではないと笑う。
近年重視される、子どもの自主性を育てるという概念を真っ向から否定するかのような取り組みだが、彼らは口を揃え、「日本よりも中国のほうが断然厳しい」と話す。
科挙をルーツに持つ中国の大学受験は苛烈を極め、「只要学不死就往死里学(勉強をしすぎて死ぬことはないので死ぬほど勉強しろ)」や「生時何必久睡死後自会長眠(生きている間から長く寝てどうする、死後は存分に眠れるのだから)」という強烈なキャッチフレーズの下、高校生活の大半を勉強に捧げている。中国での競争に比べれば、日本の中学受験など、生ぬるいものだという。
集団戦と詰め込み教育によりSAPIXのαクラスで「無双」した彼らが目指すのは開成や桜蔭、筑波大学附属駒場中といった、東大合格者ランキングで上位に並ぶ名門校だ。最近では、渋谷教育学園渋谷中学や広尾学園など、海外大学への進学実績がありグローバル教育を打ち出している学校も人気だという。