驚異的な「捌く力」を持つ
明石家さんまの圧倒的な「楽屋トーク力」と「空気を読む力」と「素人の扱い方」の全てが、エンターテインメントとして最高のかたちで結実したのが「恋のから騒ぎ」(1994年~2011年)である。
大竹しのぶと離婚したさんまはあらゆる恋愛談義に対応可能になった独身のモテ男に戻っていた。
そしてこの番組ではさらに新しい恐るべき能力を我々にみせたのである。
それは「ひな壇に並んだ複数の素人出演者20人(しかもさんまは、その日初対面で全く予備知識を持たぬ女性達)を同時に捌く能力」である。
それはトーク力と空気を読む力、そしてバスケットのNBAやアメフトのNFLの天才的運動選手並みの反射神経・状況判断能力がないと決して到達出来ない究極の技能である。
若い頃に吉本の楽屋で芸人捌きの能力の一端を見せていたとはいえ、それはまるでテレビバラエティにおける極真空手の「百人組手」(一人の空手家が同時に100人の空手家と組手をする荒業)の様にさんましか出来ない技であった。
いくら他の司会者やお笑い芸人が真似をしようとしても、さんまほどのレベルにはなかなか達せられないと現在でも私は思っている。
今になってよくよく考えればこの番組、現在の外資系ネット配信バラエティ番組などよりよっぽどムチャをやっている。自分が企画したとはいえ、さんまがこれほどまでの能力を持っているとは実際番組収録をやってみるまで想像もしていなかった。
一応厳しいオーディションをしていたとはいえ、日本全国からタレントではない、ある意味得体の知れない素人の女性ばかり20人集め、アンケートを取って「はい、後はあなたの力で面白くしてください」と無謀にも明石家さんまに丸投げしているのだから無理もない。もっとも、初めての収録日にあまりの面白さに震えヒットを確信したのだが。
さんまは初回の収録後に我々メインスタッフを集めて珍しく食事に誘った。
想像するに、かなりタフな明石家さんまにとっても、この収録は色々な意味で予想以上の衝撃を与えるものとなったのではないだろうか。
20人の素人女性から、女性タレントや女優からは決して出て来ない、ある意味で今までタブー視されていた“女性の腑から出る本音”をたっぷりと聞いてしまった事。そして、劇場の見事な楽屋捌きである程度予想出来ていたとしても、複数の素人出演者捌きという自分自身の新たなる能力を知ってしまった事。
それはまるで若きクンフーの達人が、対面した大勢の敵を一瞬で倒した後に己の能力に気付いて呆然とするあのブルース・リーの香港映画のシーンに似て……と言うのは大袈裟だろうか。
そんなことを体感したその日のさんまは自身の痺れた頭を共犯者であるスタッフと冷却する必要があったのだと思う。













