抜け毛抑制の薬が与えてくれたのは気持ちの余裕は、油断か…

この漫画の連載が始まったきっかけは、僕が家族から「薄毛の兆候がある」と指摘されたことだった。そんな経緯もあって、原稿料の一部を薄毛治療に充てることを妻に了承してもらった。

連載準備の取材として訪れた発毛クリニックで頭皮チェックをしてもらったところ、やはり「薄毛の初期段階」との診断を受けた。自覚があったとはいえ正式に結果を告げられるのは悲しいことだったが、まずは抜け毛抑制の薬を試してみることにした。

幸い薬の副作用もなく、約1年が経過した。抜け毛は減少し、頭頂部の透け感も以前ほど気にならなくなった。髪全体にコシが戻ってきたような気もする。

再度受けたクリニックの頭皮チェックでも「髪が太くなり、生え際もやや濃くなっている」と診断された。

だが家族からの反応は特になかった。

1年間、髪について何か言われることもなかったし、頭皮チェックの結果を伝えても「どこが変わったのかわからない」とのこと。

薄毛がまだ初期段階だったということもあったのだろうが、そもそも僕への関心が薄れているのかもしれない。

ではこの一年間の治療が無駄だったのかといえば、決してそんなことはない。

変化に気づかれないということは、少なくとも薄毛の進行を止められたということだ。そしてなによりの成果は、自分の気持ちが落ち着いたことだった。

歳を重ねるにつれ、不安や心配事は増えていく。老後の生活、仕事の先行き、子どものこと、老いていく親たちのこと。ただでさえ僕の心のキャパシティは狭めなのだ。それがパンパンになりそうなところに、さらに「薄毛」がやってきたのだ。

受け入れるという選択肢もあったのだろうが、それができない僕は治療を選んだ。薬を飲んでいる間は少しだけ心配を減らすことができた。それによってできた心の余裕で、自分がこれから老いていくという事実に、少しずつ向き合えるようになっていった。

近頃は薬を飲むのを忘れることもある。風呂場で頭を洗った後、排水口に吸い込まれていく短い毛たちを見ながら、「もう自然の流れに身を任せようかな」と思うことすらある。薬は抜け毛抑制だけでなく、気持ちにも作用したのだろうか。単に油断しているだけだろうか。

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トリバタケハルノブ まんが家/イラストレーター。まんが業→「トーキョー無職日記」「ことわざたずね旅(朝日小学生新聞にて隔週連載中)」「酒場はじめます(作画)」など。
イラスト業→「のぞき見探偵が行く!(月刊ジュニアエラ)」「ぶらぶら美術博物館おさらいイラスト(BS日テレ)」「戦国ベースボール」「こども戦国武将譚」 ほか。