志村けんさんが語ったこと

中山が師匠と仰ぐ志村けんさんとの印象的なエピソード。初めて出会ったのは中山が25歳の頃だった。

「その日は番組の収録で、僕は志村さんだから絶対待たせちゃいけないと思って、入り時間の30分前に行ったんです。入りが朝の10時だったので9時半に入っておけば、絶対大丈夫と踏んで行ったら、もう志村さんがいたんですよ(笑)」(中山秀征、以下同)

キャデラックのロングリムジンが止まっていて、その煌びやかなロケバスのなかにはメイク室があったという。慌ててなかに入ると志村さんの準備はすでに出来上がっていたという。

「非常に申し訳なくて『すみません!』って謝ったら、『いいんだいいんだ。俺が勝手に早く来てるだけだから』って言うんですよね。 後日、なんであんなに早く来てたんですかって聞いてみると『朝遅れるとさ、すみませんから始まるだろ? 俺はね、すみませんから始まる1日は嫌なんだよ』って言ってたんですね。『俺はどれだけ夜遅くまで飲んでも朝は早いんだ』って」

本書のなかでも、志村けんさんの話は各所に散りばめられていて、そのうちのひとつでもある『常にバカでいろ』というエピソードについても話を聞いた。

「志村さんの中では『常にバカでいろ』という信念がありました。『お前はバカだなぁ』と言われ続けることが、面白いんだと。芸能を長年続けていくと、利口になったり傲慢になったりしていくだろうけど、『絶対に偉そうにするなよ。俺たちはそもそも何もないんだから』というのを、志村さんから学んできました」

志村さんとの出来事を語る中山秀征 撮影/齋藤周造
志村さんとの出来事を語る中山秀征 撮影/齋藤周造
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そんな中山のひとつの起点になったのが、バラエティ番組「ウチくる!?」だ。19年間、司会として出演し、価値観が大きく変わったきっかけだったという。

「『ウチくる!?』は僕が結婚して1発目のレギュラーなんですよ。ちょうど子どもが生まれた時期と重なって。 30代から40代をまるまる19年やらせてもらいました。結婚して子どもが増えていったっていう成長が、あの番組の中に全部入ってるんです」

「ウチくる!?」はあの頃の自分にピッタリ合っていたと振り返る。非常にハートフルな番組で、中山秀征の代表作のひとつともいえるだろう。

「ゲストのふるさとに帰って恩師に会ったり、行き付けのお店に寄ってみたりして、最後はお世話になった方がお手紙を読んで、感動して涙するっていう。いろんな人たちがゲストとして来てくれて、さまざまな価値観に触れましたね」