”がんばってるから”と送られる拍手は、ちょっと屈辱的
――2月に渡米されてから、現地ではどのような活動を。
村本大輔(以下同)ニューヨークのコメディクラブやバーで、いろいろなオープンマイクに出てます。オープンマイクというのは、入場料を払えば誰でもステージに上がって自由に言いたいことを言えるスタンダップのステージ。そこでほとんど毎晩、英語で5分のネタをやってます。
だいたい朝は8時に起きて、コーヒーショップでネタを作って、ChatGTPで英訳。それをアメリカに住んでる友だちに送って微調整してから、丸暗記する感じで。
――日本では息をもつかせぬマシンガントークが村本さんの代名詞でしたが、英語でのネタ披露は苦労されてますか。
そうね、かなり。丸暗記って、定着するまでに数日かかるときもあって。1回目は一番ひどくて、舞台の上でもがんばって思い出しながらなんとかしゃべってる感じ。そしてそれを、お客さんも固唾を呑んで見守るみたいな。優しい眼差しで見てくれる人もいれば、興味なさげにスマホ見てる人もいるけど。
――回を重ねるごとに、徐々に定着していく感じですか。
そうなんだけど、ようやくペラペラ話せるようになったところで、全くウケなかったりするわけ。要は、語学力の問題じゃなくて、シンプルにネタの問題だったと。そういうときに「この1週間なんやったん…」って落ち込んだりします。
――アメリカのコメディクラブに立たれて、ここが一番上手くいってない、ここが悔しいと思うことは何ですか?
うーん、なんやろね…。しゃべれないのに、必死でがんばってるから送られる拍手とかは、ちょっと屈辱的ですね。しゃべり方が下手だからかわいいと思われるとか。
もしも翼があったら、じゃないですけど、俺がペラペラしゃべれてたら、もっともっといいリズムでいけて、笑わせられるのに…とかってことですかね。頭の中では自由に飛び回れるんですけど、いざ口に出すと「アイ、アム、ア…」となってしまう感じがね。
ただ、ウケないこともそうだけど、お客さんが笑っていないのを、自分が無視できないということも悔しいというか。
――どういうことですか。
日本のお笑いって、万人を笑わせないといけないっていう概念が色濃くあるように思ってて。例えばバラエティー番組でも、誰も笑わなかったら「スベった」って言われる。つまりお客さんが「ウケた」かどうかが重要視されている。
でもアメリカのコメディは、ウケなかろうが、みんな自分が言いたいことを言って、それで面白いと思ってくれた人が集まってファンになってくれる。そもそも「ウケる」も「スベる」もないんですよ。
この価値観って、日本にいたら、特によしもとにいたらなかなか覆せないですよ。毎日、「ウケたやん」「スベったやん」が飛び交ってるわけですから。
だから早く、毎回、目の前のことに合わせなくてもいいという自分になりたい。もっと自分勝手で、ワンマンでいいということを、日本から出てきて感じてます。