信頼を築くための新技術を
李 今のお話を聞いていて、政治の場面でAIによる意思決定がなされていくと、非常に危険だなと思いました。たとえば加藤陽子先生の『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫)という本がありますが、いかに当時、実はほかの選択肢もあったけれど、戦争に向かう道を選んで行ったのかという積み重ねが描かれています。歴史を学ぶって、何年にこういうことがあったとかを暗記するだけではなくて、「他にもあり得たのにこうなった」ということを知ることが大事じゃないですか。
でもAIが政治の意思決定の中心になってしまうと、あたかも「自然とそうなった」みたいに思われる。もし戦争になったとして、「他に選択の余地はなかった」というふうに思われるのは非常に危険ですよね。
田中 AIが権威になってしまうのね。
李 そうなんです。AIが「戦争しろ」と言うと、「あ、したほうがいいのかな」みたいに思う人たちが出てくる。「だってAIが言ってるから」と。
田中 そうそう、そうなる。だから今回の本で「第三の道」として紹介してくださった色々なテクノロジーは、デジタルがなければできないし、そこでAIも活用されることになると思うんです。だからこそ、その時に「AIで全部解決!」というふうにはならないということを、私たちはわかっておかなければならない。
李 おっしゃるとおりで、今回の僕の本は、テクノロジーに詳しい人からしたら、「ブロックチェーンの話題が少ない」と言われるだろうと思っています。ブロックチェーンは「トラストレスなテクノロジー」と言われていて、トラストは「信頼」ですから、「信頼の不要な技術」ということです。
ブロックチェーンを使った有名なものとしては、ビットコインのような仮想通貨があります。日本銀行とか日本国みたいな中央の機関に対する信頼がなくても、お金として扱えるということで、ブロックチェーンは「信頼がなくても駆動するシステムを可能にする」と言われています。
でも、PLURALITYを提唱しているオードリー・タンとかグレン・ワイルたちは、ブロックチェーンを否定しているわけではないですが、テクノロジーというのはトラストレスではなくて、「トラストビルディング」であるべきだと言っています。
つまり「信頼を築くための技術」ということです。たとえば意見が対立している人同士が、「コミュニケーションをしなくても、AIのおかげで社会が回るから楽だね」ではなくて、なによりも人の間の信頼が大事で。これはAIとか技術以前の問題です。
そしてオードリー・タンも釘を刺すように言っているんですけど、台湾でコロナ禍の対応とかがうまくいったのは、やっぱり国民が政府を信頼していたからなんです。「自分の情報が政府に渡っても大丈夫」という信頼があったから、テクノロジーも駆動したわけで。信頼がないところにいきなり台湾のテクノロジーを持ってきても……。
田中 じゃあ日本ではかなり困難。台湾の投票率はすごいでしょう。90%以上あります。だから社会に信頼性があるということが前提なんですよね。
李 そうですね。今回の本と対談では最新のテクノロジーについて話しましたが、「技術の導入さえすればいい」というふうに誤解してほしくなくて。やっぱり人々の間だったり、市民と政府だったり、市民と大学とかの信頼関係が大事です。だから最新のテクノロジーと並行して、「合意の形成」や「信頼の醸成」も進めていかなければいけない。そういうことが伝わればいいなと思いました。
構成/高山リョウ 撮影/岩根愛















