なぜ中国人オーナーは「家賃2.5倍」に引き上げたのか

そもそも、東京の不動産は価値が安定している一方で、家賃は他の国と比べて決して高いわけではない。投資妙味が薄いのだ。日本不動産研究所の「国際不動産価格賃料指数」によると、2025年4月の東京元麻布地区のハイエンドクラスマンションの賃料単価を100.0とした場合、ニューヨークは281.5、ロンドンは266.0だ。

一方で同じエリアの賃料水準は他国と比べて下回っている。つまり、ニューヨーク、ロンドンの方が投資利回りが圧倒的に高いわけだ。

最近では、板橋区のあるマンションのオーナーが中国人にかわり、突如として家賃を2.5倍にすると住人に通告した問題が大炎上した。7万2500円だった家賃を19万円に値上げすると一方的に告げられたというが、投資家目線だと日本の賃料は安すぎると感じたに違いない。

この騒ぎはオーナーが賃料値上げを撤回することで収まったが、投資妙味がないと判断したのは間違いないだろう。同じように感じる中国人投資家も少なくないはずだ。

しかし、海外投資家だけではなく、タワマンバブルの崩壊でより痛い目を見るのは日本人も同じだ。

不動産・住宅情報サービスを展開するLIFULLの調査によれば、自宅用にタワマンを購入した人の45.9%がいずれ売却しようと思っていたという。購入者に永住志向は薄く、資産価値の上昇による利益獲得がタワマン取得の目的になりつつあるが、経済状況の悪化などで値崩れが起これば出口を失うことになる。

タワマンの供給量は今後さらに増加すると見られており、2026年の首都圏のタワマン竣工・計画戸数は1万9345戸の予定だ。この数は2007年に迎えたピーク時のものに近い。2007年以降は価格高騰によるマンション販売の低迷に、2008年のリーマンショックが重なり、供給計画の縮小が相次ぎ、タワマンバブルが崩壊した。

現在は当時とよく似た状況にあるように見える。

取材・文/不破聡   写真/photo AC