芸能、歌…さまざまな視点から描かれる近年の戦争
今年は戦後80年。近年は戦争作品やコンテンツは視聴者受けの悪さなどから減少傾向にあるものの、朝ドラ作品ではどのような傾向が見受けられるのか。
「近年の朝ドラでは『近しい人が死んだから悲しい』という通り一遍の描き方ではなく、色々な角度から戦争を描こうという意識を感じます」
その代表的な作品として挙げられるのが、2020年度前期『エール』(主演:窪田正孝、二階堂ふみ)と2023年度後期『ブギウギ』(主演:趣里)だ。
「この2作品は戦争を擁護してしまった芸能や歌の作り手側の悲しみや切なさが色濃く描かれていました。『エール』では主人公で作曲家の裕一(窪田正孝)が作った曲が戦争にいく若者を後押ししてしまった。そして『ブギウギ』ではヒロインのライバル歌手であるりつ子(菊地凛子)が、特攻隊員に向かってステージで歌い、送り出す側に回ってしまった。
そうしたスターや芸能の目線から戦時下を描いた朝ドラは珍しく、とても印象に残る作品となりました」
特に『エール』の戦時下での描写では、裕一の恩師である藤堂先生(森山直太朗)が大激戦地・インパール作戦で戦死するシーンなど、朝ドラではほとんど描かれることがない激しくリアルな戦闘シーンもあり、大きな話題を呼んだ。
ここで『エール』と『ブギウギ』の名作のほか、半澤さんが選ぶ太平洋戦争を描いた歴代朝ドラ名シーンBEST3を聞いた。
BEST3:『カーネーション』ヒロイン・糸子vs安岡のおばちゃん
BEST3は、ファッションデザイナーとして活躍する「コシノ3姉妹」の母である小篠綾子をモデルにした2011年度後期の朝ドラ『カーネーション』だ。
「ヒロイン・糸子(尾野真千子)は戦争への向き合い方がこれまでのヒロインと大きく違いました。戦争に対し、アンチでも軍国主義でもない。『戦争みたいなチンケなものが始まったわ』ぐらいに捉えていて、自分の仕事と向き合い続ける。日本が右極化したり戦局が悪化していく中、世間と温度差が生まれていく様子が描かれていました」
そんな同作の名シーンとして挙げるのが、幼馴染の母である安岡のおばちゃんこと玉枝(濱田マリ)が雨の中、糸子に説教するシーンだ。糸子が戦争から心を病んで帰ってきた幼馴染を励まそうと、かつての片思いの相手に会わせるのだが、それによりさらに心を病んだ幼馴染が、自殺未遂を起こすという事態が起こり、濱田マリの熱演を生んだ。
〈あのな、糸ちゃん。世の中っちゅうのはなあ、みんながあんたみたいに強いわけちゃうねん。みんなもっと弱いねん、もっと負けてんや。うまいこといかんと悲しいて、自分が惨めなのもわかってる。けど、生きていかないかんさかい。あんたにそんな気持ちわかるか〉
「僕はこのシーン大好きで、ある意味では戦時下の人を描いた名シーンだと思いました。天真爛漫なヒロインを中心に都合よく話が進むことが多い朝ドラで、視聴者の気持ちを代弁するかのように安岡のおばちゃんが糸子をスパッとぶった斬ったシーンは迫力満点でした」