太平洋戦争下の名シーンBEST3
BEST2:『虎に翼』初回につながる、焼き鳥の包み紙
BEST2は、2024年度前期に放送された『虎に翼』だ。名シーンとして挙げるのは、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)が、夫・優三(仲野太賀)の戦死を知った後に、闇市で焼き鳥を買い、一人で河原で悲しみに暮れるシーンだ。焼き鳥の包み紙として使用された新聞の日本国憲法第14条を読み、涙するのだが、これが冒頭の伏線回収となっていた。
「日本初の女性弁護士・判事・裁判所長になった三淵嘉子さんをモデルにした同作では、初回の冒頭シーンで新聞に書かれた憲法の序文を読んで寅子が涙する場面から始まるのですが、実は優三が死んで悲しみに暮れていた心理描写が背景にあったと、この回で判明します。
同作は戦後に活躍する世代の人たちの心の傷も描き、原爆裁判の話も大きく取り上げるなど、幅広い視点で戦争を捉えていた作品でした」
BEST1:『カムカムエヴリバディ』金太死亡…衝撃結末に「あさイチ」鈴木アナ大号泣
BEST1は、2021年度後期に放送された『カムカムエヴリバディ』だ。半澤さんが「戦時下に限らず朝ドラトップクラスの名シーン」と語ったのは、同作でも“神回”といわれたヒロイン・安子(上白石萌音)の父・金太(甲本雅裕)が亡くなるシーンだ。
「岡山大空襲で、自分が『こっちへ逃げろ』と言ってしまったばかりに、家族を亡くした金太は激しい後悔に襲われ、心も身体もボロボロになっていくんです。ある夜、金太が引き戸を開けると、そこには喧嘩別れして戦地に行ってしまった息子・算太(濱田岳)が立っていて…。そこの2人の演技合戦が素晴らしかった」
金太は算太に安子以外の家族をみんな死なせてしまったことを詫びると、算太が「戦争じゃったんじゃ。しょうがねえが」と慰めた。そして金太の脳裏には、家族らと過ごした楽しい思い出が駆け巡る。そしてこの日の放送は、ナレーションの衝撃の一言で幕を閉じた。
〈金太が亡くなっているという知らせが入ったのは、その翌朝のことでした〉
「現実とも夢とも受け取れるような金太と算太の掛け合いから、まさかのナレ死展開。当時視聴していた私もかなり動揺し、『あさイチ』の鈴木アナも大号泣。SNSでも困惑する視聴者の声が続出していました。
息子の帰りをずっと待っていた父の心情を表した最期の名演出は文句なしの“神回”。同作は戦争をきっかけに人生を翻弄される安子から3代にわたり、戦前戦中戦後を丁寧に描いた点が秀逸でした」
朝ドラヒロインの半生を描く上で、時代のカタストロフィーの一つとして扱われることが多い太平洋戦争。今年戦後80年を迎え、今後作品が戦争とどう向き合い続けていくのかが問われている。
取材・文/木下未希