『ゴッドファーザー』と『北の国から』
変なタイトルをつけてしまった。でも、この2つのドラマを突き合わせてみると、『ゴッドファーザー』サーガの思いがけない層に掘り当たるのではないかという気がしたので、それについて書くことにする。
この2つのドラマを併せて論じるというアイディアのきっかけは、酒席で隣に座った年若い友人から聞いた愚痴である。
「上司から『北の国から』というドラマを観ろと勧められて観たんですけれど、少しも面白いと思わなかった。正直にそう言ったら、まわりの人たちから『血も涙もない男だ』と罵られた」のだそうである。気の毒なことである。
「あれはいったい、どういう話なんですか。どうして、あんな話にみんな感動するんですか」と彼から質問されたので、少し考えてこう答えた。
「『北の国から』は、家族というのはついにお互いを理解し合うことはないものだという痛ましい真理を、ただそれだけを描いた物語なのだと思う。
事実、この長いホームドラマの中に、家族のメンバー同士が互いに深く理解し合い、共感し合うという場面はついに訪れない。その責任はひとえに黒板五郎(田中邦衛)という父親にある。
彼が『家族というのは理解と共感によって結ばれていなければならない』と思い込んだせいで、家族は離散してゆく。その悲劇が視聴者の心の琴線に触れたのだと思う。」
そう言うと、彼はしばらく中空に目を泳がせていたけれど、「なるほど」と頷いた。
たぶん彼は『北の国から』のことを「心温まる、いい話」だという先入観を持って観たので、「なんか違う」と感じたのだろう。
でも、本当を言うと、あれは「心が冷えるような、つらい話」なのである。そして、多くの視聴者は「これはうちの家族の話だ」と感じて、しみじみした気分になったのだと思う。
その時に、ふと思いついて、「だから、『北の国から』と『ゴッドファーザー』はほとんど同じ話なんだよ」と話を続けた。
「マイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)は黒板五郎なんだ」と言ってから、自分でも「なるほど。そうだったのか」と腑に落ちた。
私一人で勝手に腑に落ちられても困るであろうから、その所以を以下に説明して、私の『ゴッドファーザー』論としたいと思う。