〈安楽死がテーマ〉胸をえぐる物語の展開、クリント・イーストウッドのみるべき一本とは_1

最後には安楽死がテーマに

94歳の今も現役の映画監督&俳優として活動しているクリント・イーストウッドですが、驚くのは、その作品が年齢を感じさせないこと。高齢になってからも活躍し続けた監督はほかにもいますが、たいていは作風が老いていくのよね。

でもクリントの作品は時代によってちゃんとテーマがアップデートされていて、「ご老人が作った映画」と思わせない新鮮さがある。これは本当にすごいことだと思います。

私が特に好きなのが『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)。製作・監督・出演・音楽も手掛けている、まさに彼の真髄ですね。

最初はシンプルなボクシングの映画と思わせておいて、最後には安楽死がテーマになっていく。ものすごく問題意識の高いストーリーだったし、胸をえぐる展開でした。

俳優だった彼が初めて監督を務めたのは、スーパースターの地位を確立した40歳をすぎてから。いろいろな監督と仕事をする中で、演出に必要な視点を蓄積させていったのね。

普通ならスーパースターの頂点を極めたら、それで念願成就なのに、彼はその後すばらしいキャリアを築いた。人としての「一生」だけでなく、俳優、監督としての人生も加わった「三生(!)」を生きている希有な人だと思います。