「死人が出たらどうする」「人殺し」の声
精神安定剤を服用したが発作は起き続けた。病院で診察を受け「パニック障害」と診断された。薬を処方されテレビ収録時は、必ず服用して出演した。しかし、症状は収まらなかった。そして、最も大切なはずの「試合」の時さえも発症するようになっていた。
「試合で入場ゲートの入口に立った時にパニック症を起こしたこともありました。皇治選手と闘った大阪(2018年12月8日、エディオンアリーナ大阪)では会場に入った瞬間に天井が低いことが気になってパニックになってしまいました。試合の直前ギリギリまでホテルで休んで、なんとかリングに上りましたが…」
さらに追い打ちをかけたのが、2020年3月22日だった。この日、K-1はさいたまスーパーアリーナで大会を開催した。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で国と埼玉県が開催の自粛を複数回にわたり要請していた中、強行開催したことで世間から猛烈な批判が起きた。
そして、その矛先は団体、大会の顔でトップ選手だった武尊へ向けられた。
「那須川選手からの対戦要求でアンチコメントを投げかけてきたのは格闘技ファンでしたが、この時は一般の報道番組とかで報じられたので僕のSNSに『死人が出たらどうする』『人殺し』とか何百件も誹謗中傷コメントが書き込まれました」
大会の開催を決めたのは団体であり、トップ選手とはいえあくまでファイターである武尊は、開催の判断にはまったく関係していない。一人の選手に対して、あまりにも行き過ぎた批判に「パニック障害」は悪化していった。狭い空間だけでなく暗い場所も発作が起きるようになった。
「レオナ(ペタス)戦(2021年3月28日、日本武道館)の時は、試合前にアップするところが暗くてそれが嫌でスタッフの方に『ライトつけてください』って頼んでアップスペースに光をつけてもらっていました」
パニック障害を診断されてから7年あまりが経つが、今も克服はしていないという。
#3「今後の現役生活への思い」へつづく
〇いのちの電話 ℡0570・783・556(午前10時~午後10時)、℡0120・783・556(午後4~9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
〇こころの健康相談統一ダイヤル ℡0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
取材・文/中井浩一 撮影/村上庄吾