唯一の楽しみ「友達との時間」を奪われて鬱に…

史上初のK-1三階級制覇を達成した王者は、なぜ心の病に見舞われ、どう闘ったのか。そして、同じ病に苦しんでいる人々に伝えたいことは何か。

武尊はこれまで鬱を2度、発症している。最初に病に冒されたのは、高校時代だった。鳥取県内の高校に入学したものの素行不良が原因で1か月で停学となった。この時にメンタルに異変が生じた。

「停学の間は学校から『家から出てはいけない、誰とも会ってはいけない』と指導されました。友だちとも会えないし、ずっと家にいても楽しくない。だからルールを破って夜になると家を抜け出して遊びに行ってたんです。夜は寝ないで朝まで遊んで昼間に寝るという昼夜逆転の日々で生活リズムがおかしくなって自律神経に支障が出てきました」

その後も素行不良を繰り返し、入学から2か月あまりで退学を余儀なくされた。そして心の異変について自覚症状を感じた。

「自分でもメンタルがおかしいなと気が付いたのは、何をしても楽しくなくて『あれ? 俺、1か月ぐらい笑ってないな』と自覚した時でした。もちろん、僕が悪いことをしてしまったので停学、退学は自業自得だと今の僕は思います。

「ここでは言えないようなワルいこともしてしまった」と話す武尊
「ここでは言えないようなワルいこともしてしまった」と話す武尊
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あの時は、退学になった時に学校から、自分と仲良かった『もう友達ともにもう関わるな』と言われて、友達の連絡先を全部消されたんです。その時に一緒に退学処分となった友達がいたので、その友達と一緒にいると『また悪いことをしてしまうのでは』と先生と親が心配をして、連絡先を消させることを決めたのかもしれません。

ただ唯一、自分にとって楽しい時間だった“友達と会える時間”も奪われてしまったんです。それでも隠れて友達に会いに行っていました。会いに行くんですけど、悪いことをしてる気持ちがずっとあるので、常に誰かに追われているような感覚で『バレたらヤバい』と思いながら過ごしているうちに自己嫌悪が強くなってストレスが溜まっていきました」

わずか2か月余りで高校を退学した武尊だが、幼いころからの夢だった「K-1戦士になる」という夢だけは忘れなかった。小学2年から正道会館に入門し空手を始めていたが当時は、退館し新たにキックボクシングのジムに通いアマチュアの試合に出場していた。