民主主義に絶望している人たち
李 まず、現在は1930年代と状況が似ているのではないかと思うのです。「資本主義と民主主義の行き詰まり」が指摘されていて、極左だったり極右のような極端な政治思想が広まっている時代だと思います。
この日本でも、特に民主主義に絶望している人がたくさんいまして、そういった人々は、この本に書いてあるような「テクノクラシー」だったり「リバタリアニズム」を支持しています。
テクノクラシーの「テクノ」は技術、「クラシー」はギリシア語で支配を意味する「クラトス」に由来する言葉。人間や社会の統治をテクノロジーの専門家が担うことを意味します。代表的な提唱者にイーロン・マスクがいます。
リバタリアニズムは、暗号技術やネットワーク・プロトコルにより規制から解放された個人が利益を追求することを最重視するイデオロギー。
PayPalやOpenAIの共同創業者であるピーター・ティールが、代表的な提唱者です。ティールは「私は自由と民主主義が両立するとは思わない」と主張しており、ドナルド・トランプとその支持者の主要な援助者でもあります。
テクノクラシーとリバタリアニズムが支配的な、現在の民主主義。しかし、あなたやオードリー・タンは、そのどちらでもない立場を取っています。あなたたちの立場とはどういうものか、説明していただけますか。
ワイル 国際関係においても民主主義においても資本主義においても、「制度が壊れているのではないか」とか、「これまでのような体制が崩壊しつつある」というような、希望のない見方、または恐れや懸念があると思います。
しかし、民主主義や資本主義の分野において、まだ現実に起こっていない、私たちがまだ見ていないようなワクワクする展開が、これから生まれてくるだろうと思っています。その明確なビジョンとテクノロジーを、この本で示したいのです。
民主主義が多くの地域で衰退し、経済成長が鈍化している一方で、たとえば台湾のような場所では状況がよくなっています。民主主義は進展し、経済成長は加速しており、その両者はテクノロジーの発展と共に加速しています。
一方、日本では、人々は政党に対して少し幻滅しているかもしれません。日本の政党制度は、これまで特に活気のあるものではありませんでした。しかし同時に、日本において世界で他に類を見ない非常に特別なことが起こっており、私たちに異なる視点を提供しています。
このような体制について、西欧や他の世界のコミュニティにおいては、十分に議論がされていないと思います。
現在は「議会制民主主義か、独裁主義か」というような、非常に極端な面からの議論しかされていません。ですが将来的には、新たな政治の枠組みが出てくるだろうと私たちは思っています。
世界を見ると、特に日本を見ていると、文化的にも政治的にも未来志向であるように思います。また日本以外にも、インドや台湾の状況というものがあり、西欧とはすこし違う形で民主主義が発展しています。政治体制も同様です。
それなのにこれらの国の話を、人々はあまりしていないように思います。ヨーロッパかアメリカか中国の話ばかりしている。しかし本にも書いたように、インドや日本、台湾は、Pluralityの観点からは、欧米や中国より進んでいる面があるのです。
ですから、ぜひ日本は、いまの日本の状況を世界に向けて発信すべきだと思います。未来へのビジョンとリーダーシップを、日本は示すことができます。