制度に埋め込まれた理不尽──相撲部屋

ところで、興味深いことにジャニーズがミュージカル・グループとしての自立を目指すにあたって参考にしたのが宝塚だったといわれる(周東美材『「未熟さ」の系譜│宝塚からジャニーズまで』新潮選書、2022年、152頁)。

たしかに男女の違いがあるだけで、10代の少年少女を共同生活のなかで純粋培養し、芸能人としての活動機会を組織が一手に握るというシステムはうり二つだ。

ジャニーズも宝塚も教育機関としての役割を担い、「歌と踊りのレッスンを通じて人格形成を目指」した(矢野利裕『ジャニーズと日本』講談社現代新書、2016年、27〜28頁)という点は何とも皮肉だが。

そして意図されていたか否かはともかく、結果的に問題の隠蔽につながるような慣行や風土まで、宝塚を「模写」した可能性がないとは言い切れない。

伝統の名のもとに一般社会では許されない行為が見過ごされてきたという点では、宝塚のはるかに上をいくのが大相撲の世界だろう。

写真/Shutterstock
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幕内最高優勝45回を誇るかつての大横綱白鵬(宮城野親方)が率いる宮城野部屋では、2024年になって幕内力士による後輩力士に対する度重なる暴行が明るみに出た。

それを受けて加害力士には引退勧告相当として引退届を受理、宮城野親方には委員から年寄りへの2階級降格と報酬減額という処分が下され、宮城野部屋は当面閉鎖されることになった。

日本相撲協会が揺れ、一時的ではあっても宮城野部屋という基礎組織の崩壊が起きたわけである。

大相撲の世界では、これまでにも日馬富士、朝青龍の両横綱が不祥事で引退に追い込まれたほか、部屋のなかでの暴行疑惑もたびたび報じられた。

一昔前までは親方が力士の尻を蹴りあげたり、竹刀で叩いたりするなどの行為は当たり前のように見られ、それが暴力であるという認識は薄いのが現実だった。そのような指導方法が伝統だという受け止め方に加え、相撲は格闘技という一面を持つだけに少々の暴力は見過ごされやすい。しつけや稽古も暴力とは紙一重なのだろう。